最悪のタイミング。それでもバイデンがアフガン撤退を敢行した真の意図

2021.09.30
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一方的と言っても過言ではない8月末の米軍の完全撤退に、まさに大混乱となったアフガニスタン。国内外から大きな批判を浴びながらも、なぜバイデン大統領は性急と思わざるを得ないタイミングで軍を引いたのでしょうか。その意図を分析するのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回の撤退劇で明らかになった「バイデン流アメリカファースト」を解説するとともに、今後の米国外交の行方を予測しています。

アフガン撤退で現れたバイデン流のアメリカファースト

8月末、最後の米軍機がアフガニスタンの首都カブールから飛び立ち、9.11から20年続く米国の対テロ戦争は終結することになった。バイデン大統領は8月31日、米ホワイトハウスで国民向けに演説し、アフガニスタンからの米軍撤退を並外れた成功と位置づけ、今後は中国との競争に対応する必要性を強調した。

バイデン大統領が成功と位置付けたことに関し、内外から多くの非難の声が出ている。米軍は撤退したものの依然として一部の米国人はアフガニスタンに残っており、先月にはイスラム国系武装勢力がカブール空港付近で自爆テロを行い、10人以上の米兵が犠牲となった。また、人道的側面からは、タリバンが実権を奪還したことで女性の人権が脅かされるとの懸念が広がり、人権を重視するバイデン大統領の今回の決断はダブルスタンダードだとの声も聞かれる。

確かに、バイデン大統領が4月に米軍の完全撤退を表明して以降、反政府勢力だったタリバンは士気を高め、夏以降は短いスパンで一気にカブールまでを掌握したことから、タイミングという中では問題があったと言えるだろう。

失った90万人の命と8兆ドルのカネ

しかし、「次世代の米国人をアフガニスタンには送らない」、「アフガニスタンの国家建設はアフガニスタン国民の権利と責任である」、「米軍撤収はもっと早く実施されるべきだった」などと米軍の完全撤退を強調するバイデン大統領の意見には多くの米国民からの賛同があったことも事実だ(タリバンの実権奪還で支持率は下がってはいるが)。米ブラウン大の研究チームが9月に発表した調査によると、20年に及んだ米国の対テロ戦争の総費用は8兆ドル(アフガニスタン・パキスタンでの費用が2.3兆ドル、イラクやシリアでの費用が2.1兆ドル)に上り、戦争によって亡くなった人は米兵約7,000人を含み90万人あまりになったという。莫大なカネと人を注ぎ込んだにも関わらず、国連の報告によるとアフガニスタン国内にはアルカイダのメンバー数百人が依然としており、中東やアフリカにはアルカイダを支持する武装勢力が活発に活動している。

こういう現実に照らせば、費用対効果で考えた場合、米国の対テロ戦争は負担ばかりが前歩きし、効果(成果)というものは殆どないように思われる。9.11直後、当時のブッシュ大統領はアルカイダを根絶するためにアフガニスタン戦争を始めたと公言したが、そうであれば2011年5月にアルカイダのオサマ・ビンラディン指導者を殺害した時点で完全撤退した方がその意義を強調できたことだろう。

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