被告は指導者・金正恩総書記。日本初「北朝鮮政府を訴えた裁判」の行方

 

米国で北朝鮮を相手の裁判の先例がある

かつて、北朝鮮政府を被告に行われた裁判は世界を見ると米国であった。それは日本でも話題になった米国の大学生、オットー・ワームビア氏の死に対して、2018年に両親が、米国連邦地裁に北朝鮮政府を相手に民事訴訟を起こしている。2016年1月に観光で北朝鮮を訪問したワームビア氏は、宣伝物毀損の疑いで裁判にかけられ、15年の労働強化刑を宣告された。しかし、その裁判が終わった翌日からワームビア氏は意識不明に陥ったとされ、北朝鮮側は本人が食中毒になり、睡眠薬を飲み昏睡状態になったと説明していた。その後、2017年6月に米国に帰国したが、脳神経に深刻な損傷を受けていたことがわかるという震撼する事件であった。

これに対し、米国世論も北朝鮮に対して批判を強め、5億113万ドルの賠償命令判決が下されている。2020年5月には、米国の3つの銀行にある北朝鮮関連資金の2,379万ドルの詳細な情報が公開された。日本にも北朝鮮政府の資金や財産があれば、それを探し出し、判決によっては、差し押さえることになるかもが今回の裁判の注目ポイントである。

北朝鮮側の反応はいかに

本日、10月21日に至るまで今回の裁判に対する北朝鮮側の反応は出てきていない。北朝鮮メディアは、静観しているということであろうか。脱北者に関して、北朝鮮のメディアは“人間のクズ”のように数多く批判してきている。北朝鮮の労働新聞によると、今年5月2日には金与正副委員長が、韓国で活動する脱北者に対して、「人間のクズとし、不潔な行為に対して不快感を示している」という談話を発表している。

北朝鮮の家族法によると、第6条は「子供と母の保護原則」が定められている。その内容は、「国家は母が子供を健在に養育し、教養することができる条件を保証することにおいて先次的な関心を払う」というものだ。しかし、今回の原告団の1人の川崎栄子氏によると、北朝鮮では食糧事情が悲惨で、子供たちは、食べるものを探して、「赤とんぼを取って乾かして食べた」と証言した。

今回の歴史的な裁判の判決は来年3月に出るようだ。北朝鮮の法律とも照らし合わせてみれば、原告団の悲惨な経験の現状が立証されるはずだ。膠着した日朝関係の中で淡い期待かもしれないが、1人の研究者としても今後も注視していきたい。(宮塚コリア研究所副代表 宮塚寿美子)

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