京王線“ジョーカー男”事件で識者が提言。模倣犯を出さぬために徹底すべき3つの対策

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10月31日夜、東京都調布市内を走行中の京王線の車内で発生した殺傷放火事件。その動機は「殺人を犯し死刑になるため」という極めて許しがたく身勝手なものでした。改めて乗客の安全確保の問題が浮き彫りとなった当事件ですが、再発防止策はあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住の作家で鉄道事情に詳しい冷泉彰彦さんが、鉄道会社のみならず、日本社会全体が一丸となって取り組むべき対策を提言。模倣や再発を断つためには「極刑よりも厳しい全的な苦痛」に追い込むことも止む無しとしています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2021年11月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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京王線襲撃テロ、提言したい3つの対策

京王線の襲撃テロ事件には驚きました。小田急線の事件を参考にした模倣犯だということもありますが、それにしても「ジョーカーに憧れた」とか「死刑になって死にたかった」などという犯人の発言を聞くと、身の毛のよだつのを感じます。

とりあえずこの事件に関して、3つの論点を提案してみたいと思います。

1つは、鉄道の最新のハードウェアやオペレーションに見合った安全対策を、システム化するということです。今回のような事件に遭遇した場合に、乗務員がどのような動作をするか、また乗客がどう動くかは「ケースバイケース」だなどという声が、現場からも専門家からも上がっていますが、ちょっと悲観論に過ぎると思います。

やれることはあり、原則をしっかり押さえて乗客の安心感を確保するために、現在のハードウェアやオペレーションに見合った対策をキッチリと組み立てるべきです。

まず現在の鉄道、特に大都市圏の近距離鉄道では、ホームドアの設置が進んでいます。今回の事件では、緊急停止したのに「停止位置がホームドアとずれた」問題、そしてホームドアを「線路側から緊急に開放する方法」が分かりにくいという問題が出ています。

これこそ正に「ケースバイケース」ではなく、しっかりと検討した上でシステム上の対策を講ずるべきと思います。今回の事件は京王本線の地下区間(国領駅付近)で発生した訳ですが、このような地下区間、あるいは地下鉄の場合は、原則として「非常時には乗客の避難のために進行方向直近の駅に緊急停車」して、「その際には正確にホームドアに合わせた停車位置」とする。その上で、「扉とホームドアを開放する」という3つを大原則として、緊急時にはそのようにすべきです。

問題は、この対策が取れないケースで、例えば「速度が出過ぎていて、進行方向直近の駅には停車が間に合わない」という場合は、次の駅に行くしかないと思います。その判断を指令が行ったら、そのように全体が動くべきです。また、人命の問題等で一刻を争う場合には、まず救急隊が一番早く対応できる駅に急いで着けるなど、確かに臨機応変な対応が必要なこともあります。進行方向はトンネル火災のために、後退するしかないというケースもあるでしょう。

ですが、そうしたケース毎の対応は別に取れるようにしておいて、少なくとも車両内の火災、暴力行為等の場合は、進行方向直近の駅に緊急停車でいいし、そのような可能性を最優先に全体のシステムを設計し直すべきです。その際に、停止は正確にホームドアの位置、安全に停止を確認後直ちに扉とホームドアを開放というのが手順になると思います。今回は、この停止位置がズレたわけですが、最初から緊急停車は正確にホームドアの位置という対応ができれば、特に何らかの自動装置の支援や設定でそうできればいいと思います。

例外は、暴力を振るっている人物が、継続的に加害を続けているケースで、ドアを開放すると危険が拡散する、あるいは超危険物質が車内に散布されておりドア開放が被害を拡大するといった可能性がある場合ですが、号車を限って緊急停車時にドアを開けない対応等は、司令の判断で可能にしておく必要はあるでしょう。

問題は、現在の鉄道ではワンマン化が進む中で、緊急時の対応が運転士ではなく、指令に移っていることです。指令がカメラの情報などで、事態を把握して判断を下すというシステムです。問題は、その指令がどこまで正確に事態を把握できるかで、この点についてはまだまだ改善が必要と思います。カメラの台数を増やすだけでなく、乗客からダイレクトに指令にSOSを飛ばせる仕組みなども考えていかねばなりません。悪用は排除するにしても、この機能は必要と思います。

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