組織から文書改ざんを強要された職員が命を断つなど、大疑獄事件に発展したと言っても過言ではない森友学園問題。自死した職員の妻がその真相を知るために起こした裁判でも国は「認諾」という手続きで突然の幕引きを図るなど、一貫して真実を明らかにしようとはしません。そのような不誠実な態度を取り続ける行動原理はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、改めて文書改ざん事件の経緯を振り返るとともに、国が認諾に踏み切った理由を推測。さらに当問題に対して再調査の必要性を認めない岸田首相に対しては、国民に対する説明責任を含めた真摯な姿勢を求めています。
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国家賠償の「認諾」で隠し通そうとする文書改ざんの秘密は何か
ここまでして、政府は何を隠したいのだろうか。森友学園問題で自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫氏の妻、雅子さんが国に対し1億700万円の賠償を求めた裁判は意外な結末を迎えた。
請求の棄却を求めていた国が一転して賠償責任を認め「認諾」したのである。つまり、国民の血税で1億700万円払いますので、裁判は終わりにしましようというわけだ。
だが、赤木雅子さんはカネが欲しくて訴えたのではない。森友事件にかかわる財務省の決裁文書改ざんをめぐって、なぜ夫の俊夫氏が自殺に追い込まれたのか。「その原因と経緯を明らかにする」(訴状より)のが第一の目的だった。
この事件で当時の佐川宣寿財務省理財局長ら10人が告発されたが、不起訴になり、雅子さんが夫の死の真相を知るための手段は民事訴訟しかなくなっていた。これまで1年9か月にわたって争われ、来年2月9日に次回公判が予定されていたが、今月15日に公判の論点整理のため非公開で行われた協議の場で、国側がいきなり態度を変えたのである。
赤木さん側は「認諾」を恐れ、あえて1億円を超える賠償額を設定したのだが、国側は全額を払ってでも裁判をシャットダウンする方策を選んだ。来年2月9日の公判以降は、佐川元局長らの証人尋問が予想されていた。証人たちの口を封じるのが目的としか考えられない。
国家賠償訴訟で国側が「認諾」することはきわめて稀だ。過去に4回だけである。
大阪地検特捜部の証拠改ざんによる不当逮捕・起訴に対し、元厚生労働省局長、村木厚子さんが約3,770万円の賠償を求めた訴訟で2011年10月に「認諾」したのはその一つ。国側に争いようのない落ち度があった。
NPO法人「情報公開クリアリングハウス」が日米合同委員会の議事録を情報公開請求し、不開示とされたことについて、裁判所が日米間のメールなど文書提出を命じたため、国が「認諾」(2019年6月)によってそれを回避したケースもある。
米軍に治外法権的な特権を許しているのが、国内法の及ばない日米地位協定と日米合同委員会の存在だ。日米合同委員会の協議内容が、日本国民に知らせたくない秘密ばかりなのは想像に難くない。
国家賠償訴訟において国が「認諾」するのはこのように、よほど特別なケースのみだ。今回の「認諾」について、鈴木俊一財務相は「国の責任は明らかという結論に至った」と語っているが、具体的に、いかなる理由で認識を変えたのか、いっさい説明はない。
国は2018年6月4日、「決裁文書改ざん調査報告書」なる財務省の内部調査結果を公表。今年6月には、赤木俊夫さんが改ざんの経緯をまとめて職場に残した「赤木ファイル」を開示した。
これらの資料で、概ね以下のような事実が明らかになっている。
17年2月17日の衆議院予算委員会で当時の安倍首相が「妻と私が関係していたら議員も総理もやめる」と発言したあと、近畿財務局と森友学園との交渉記録などを野党に求められた佐川局長は「記録は一切残っていない」と答弁した。
しかし、総理夫人の名が記された文書が存在することが判明し、佐川局長は「記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべきである」と省内で語った。具体的な指示はなかったものの、それを聞いた総務課長らは決裁文書の書き換えが必要だと認識した。
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