サントリー「天然水」を清涼飲料No.1ブランドに押し上げた“外様社長”の意識改革

 

1兆6,500億円の巨額買収~「ハイボール」でアメリカ攻略

新浪をサントリーに呼んだのは4代目で現在は会長の佐治信忠だ。当時、「これからのサントリーを引っ張っていくのはどんな人物がふさわしいのか。国際的な経営感覚を持ち、サントリーグループをグローバルに成長させてくれる人。私は新浪さんに社長になっていただきたいと考えました」と、語っている。

この時、佐治はアメリカのウイスキー大手ビーム社を、1兆6,500億円を投じて買収していた。蒸留酒の売上高ではサントリーを大きく上回っていたビーム社を統合することで、サントリーのシェアは世界3位に躍進した。

しかし、ビームは創業1795年の老舗企業。保守的な社風もあり、統合は簡単ではなかった。佐治はグローバル戦略を成し遂げるために新浪に白羽の矢を立てたのだ。

社長となった新浪が目をつけたのが、日本で大ヒットしたハイボールだった。

ニューヨークのバーを視察した際、新浪はビームのセールスチームに、「ハイボールを売っていこうと思う」と切り出した。するとビームの社員は戸惑った様子で「アメリカではウイスキーはボトルで販売するのが主流」「ウイスキーはストレートやコーラ割りで飲むもの」と答えるのだった。

「君たちはなぜチャレンジしようとしないんだ!」と一喝した新浪は帰国後、ビームの幹部を日本に呼び寄せた。アメリカでの販売には相変わらずの難色を示す彼らを連れて行ったのが日本の立ち飲み居酒屋。そこはハイボールで大盛況。食事をしながらジョッキでハイボールを飲む。日本のスタイルを目の当たりにした彼らは「日本人はウイスキーの新しい飲み方を作ったんですね」と感心した様子だった。

その後、ビームはハイボールマシンごとアメリカのバーに売り込み。今では全米3,000店でハイボールが採用され、世界での「ジムビーム」の販売量は2倍以上伸びたのだ。

一方で新浪は意識改革も進めた。毎年、ビームの社員を日本に招き、経営や仕事の進め方について講義を行なっている。コロナ禍の今はオンラインで「やってみなはれ精神とは、挑戦すること、やり続けること、修正すること、やり抜くこと」と説く。

統合から7年。今ではビームサントリーの社員から「リーダーシップを発揮することを恐れません。それが私の『やってみなはれ』です」などという声が上がるようになった。

海を越えた「やってみなはれ」。新浪は「ビーム」との統合を軌道にのせた。

cam20220107-5

254147232_316012703694602_8823022577465445200_n

print
いま読まれてます

  • サントリー「天然水」を清涼飲料No.1ブランドに押し上げた“外様社長”の意識改革
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け