「女性に戻ったわけではない」の真意
ユズシカさんはその後、39歳で男性器を切除。以降、役所や関係各所へ出向き、およそ3年かけて性別変更の手続きをとり、再び女性になりました。
しかし、「女性に戻った」と言われると「釈然としない気持ちになる」のだそう。
「女性に戻ったんじゃない。振り返れば、私は長い時間をかけて『中性の自分』を求めていたのだと思うんです。現在も無理にフェミニンなファッションは着ない。髪はショートカットのまま。勤務する病院でも、わざわざ女性になりましたなんて言ってないです。性別は、どちらともとれる。そしてそれが、今の自分にはとても自然なんです」
戸籍上は女性でも、精神的には「中性」として穏やかな状態で日々を過ごせているというユズシカさん。「往復性転換」をした人生に、後悔はないのでしょうか。
「とにかく、お金がかかる人生でしたね。けれども、その瞬間その瞬間を必死で生き、自分で決断してきました。後悔はありません。ただ、中学・高校の制服が『女子だからスカート』ではなく、ズボンを選べていたならば、退学はしなかったかもしれない。そして、ちゃんと卒業して、別の人生があったのかも。それは、ちょっと思う日がありますね」
女と男。およそ50年にわたり、性別のあいだで揺れ動き続けたユズシカさんの人生。その50年の間に日本では「男なら」「女なら」といった性別への先入観や偏見、差別を覆すためのさまざまな取り組みが行われてきました。
しかし、学校の制服をはじめ慣習は強固に根付き、変革できぬ様式もまだまだたくさん残っているのが現実。「中性」という境地に生きやすさを感じたユズシカさん。そこに学びがあると感じた取材でした。