愚かさの極み。プーチンの「核威嚇」が世界に与えた5つの「負のインパクト」

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主権国家への軍事侵攻のみならず、核兵器の使用までをもちらつかせたプーチン大統領。正気を失ったかのようなこの独裁者の蛮行は、国際社会にどのような影を落としてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、プーチン大統領が核の威嚇で世界に与えた「5つのインパクト」を上げ、それぞれについて詳細に解説。さらに人類や日本にとってもっとも安全と言える核との向き合い方について、リアリズムに徹しつつ議論する必要性を強く訴えています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年3月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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プーチン危機の中で核兵器管理を考える

ウクライナ侵攻を進める中で、ロシアのプーチン大統領は「核抑止部隊」に対して「警戒命令」を発動しました。もちろん、これはアメリカのブリンケン国務長官が述べているように「核レトリック」、つまり核を使った「言葉のゲーム」に過ぎません。ですから、アメリカとしては「無視=スルー」するのが適切であり、バイデン大統領は、その後に行われた一般教書演説で一切これに対して言及しませんでした。

アメリカの政権の、この対応については正しいと思います。ですが、国際社会としてこのプーチンの行動を完全にスルーするわけには行きません。この行動は、例えばフルチショフが1963年にキューバに核ミサイル基地を建設しようとしたキューバ危機、そして1950年から51年にかけて朝鮮戦争を戦っていたマッカーサーが大規模な戦術核攻撃を提案して、トルーマンの怒りを買って解任された事件を想起させます。

もちろん、20世紀の末から21世紀にかけて、核攻撃を匂わすような行動に出ている国はあります。NPT(核拡散防止条約)から脱退して、核ミサイル開発に躍起となっている北朝鮮の言動がその第一だと思います。その他にも、インドとパキスタンの核開発競争、イスラエルによる秘密裡の核保有、イランの問題など、核兵器の実際の使用を「チラつかせる」行為は後を絶ちません。

ですが、今回のプーチンの行動は、次の5点において大きなインパクトがありました。

1つ目は、NPTによって核兵器の保有が認められている5大国の1つが、こともあろうに核兵器の使用を示唆したのです。これによって、NPTの体制は大きく揺らいだと考えられます。

2つ目は、少なくとも米国との間で強力な核攻撃能力を相互に保有することで、MAD(相互確証破壊)に達しているとされる相手が、核兵器の使用を示唆したということです。

3つ目は、これとは別に、地球社会全体において、戦術核の使用に関するハードルを下げたという問題です。

4つ目は、核の傘に関する実効性という問題です。

5つ目は、MD(ミサイル防衛システム)への影響です。

まず、NPTですが、これは1960年代から70年代にかけて、日本の佐藤栄作総理などが世界に働きかけて実現したものです。つまり、5大国、すなわち米国、英国、フランス、中国、ソ連(後のロシア)には核兵器の保有を認めるが、その他への拡散は認めないということで、核戦争の危険を回避しようというものです。

勿論、このNPTには大きな欠陥があります。それは5大国には核兵器の保有が認められているのに、他の国に対しては禁止されているというのは不公平だという問題です。ですが、この5大国については国際連合の安全保障理事会の常任理事国であり、従って拒否権(ビトー)を有しています。つまり国連の屋台骨という位置付けであり、従って「彼らが率先して核兵器を使用することはない」という暗黙かつ無言の信頼と共に保有が認められていると考えられています。

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