愚かさの極み。プーチンの「核威嚇」が世界に与えた5つの「負のインパクト」

 

2番目の相互確証破壊というのは、例えば米ソの間で確立したもので、A国がB国に対して戦略核攻撃を行なったとして、まずB国を一撃で壊滅させることはできない、反対にB国が戦略核で反撃した場合に、A国は壊滅的な打撃を被るというような核攻撃能力を相互に保有した場合には、AからB、そしてBからAの戦略核攻撃は「自国の壊滅をもたらす」ことから相互に不可能となり、AB間では核の恐怖の均衡が成立するという理論です。

米国の場合は、現在はロシアとの間でこの相互確証破壊が成立していると考えられます。お互いに、第2撃で壊滅的な破壊をお互いの国に対して加えることができる、従って相互に抑止力が有効になっているというわけです。ですが、これもお互いが「核攻撃という愚かなことはしない」というのが大前提になっているわけです。

例えばですが、ロシアが今回のような局地紛争において、NATOや西側に近い国家に対して戦術核攻撃を行なった場合に、ロシアは場合によっては核攻撃を行う国ということになります。MAD理論はそのように「恐ろしい国だからこそ恐怖の均衡が必要」というネガティブ思考で成り立っていますが、同時に極めて自己中心的な「2国間の均衡」が、それ「だけ」が成立する理論でもあります。

ということは、今回のような事態になると、米国だけは比較的安全ということになる一方で、例えばNPTで合法保有しているはずのフランスや英国の場合は、NATOの中でロシアと敵対しつつ、核の脅威に晒されるということになります。つまりMADに達しない「中途半端な核抑止力」ということになり、万が一の場合には核軍拡に走る危険性があります。

勿論、机上の理論の話であり、英国にはそのようなカネはなく、フランスはそのように愚かではないと思いますが、やはり核抑止ということ、そしてMADに達している場合と、達しいない場合の均衡ということで、今回の事態は問題を生じていると思います。

3番目は、戦術核の使用という問題です。これは1番目のNPTの動揺、2番目のMADの問題というのとは違ってもっと曖昧な、ある意味では時代の空気感のような話ですが、とにかく今回のプーチンの行動によって、世界中で「核兵器の保有と使用」に関する現実味がグッと濃厚になっています。

戦術核だけではありません。核テロということも入ってくるでしょう。つまり、大国ロシアが核を威嚇に使ったことで、これが怖いという理由、そしてロシアが保有してそれを脅しに使うのなら、自分達も持ちたい、脅しに使いたい、場合によっては実際に使用したいという国家やグループが確実に増えてくるという危険性があると思います。国際社会として、これをどう抑止するのかは喫緊の課題だと思います。

4番目は「傘」の問題です。今回のロシアの行動を受けて、早速、日本では「核シェアリング」の議論が出てきました。つまり、「傘」だけでは心配であり、実際に国内に共同保有したいという議論です。要するに「傘」の場合は、提供国が自分が再反撃を受ける危険を引き受けてでも報復核攻撃をしてくれるのか「分からない」という不安、そして「傘」だけでは戦術核を持っているのと同じ戦術上の抑止効果がないという不安から来ているわけです。

これは日本だけの問題ではなく、核共有をしている米国と、ベルギー、オランダ、ドイツ、トルコ、イタリア「以外の」西側同盟国の中で、傘の提供を受けている国は、大なり小なり、そうした議論への誘惑を感じている可能性があります。

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