愚かさの極み。プーチンの「核威嚇」が世界に与えた5つの「負のインパクト」

 

ちなみに、拒否権を持たせることで、5大国が一致しない場合は安保理は機能不全に陥り、例えば国連平和維持軍(PKF)を編成することもできなくなります。今回のロシアがいい例であり、拒否権保有国が関与する国際紛争に関しては、国連安保理は機能しません。このため、特に今回のウクライナ戦争を契機として、改めて安保理は欠陥があるとか、ロシア抜きの組織を作るべきだとかといった議論があります。

ですが、この点に関しては違うと思います。拒否権というのは、仮に5大国間で大きな意見相違があったとしても、大国が脱退して国連が崩壊することを防止するために、設けられているものです。これは、特に1933年に当時常任理事国であった日本が脱退したことで、国際連盟(リーグ・オブ・ネイションズ)が崩壊したことを教訓として、これを回避することを目的としています。

つまり拒否権行使を認めることで、大きな対立を抱えている常任理事国も、国連を脱退せずに国連内に残留することができるというわけです。1980年代までの冷戦期には、多くの案件で米国とロシアは拒否権を互いに乱発しました。その結果として、多くの紛争においてPKFを出動させることに失敗しました。ですが、国連が崩壊し米ソが対決するような、つまり第三次世界大戦の勃発を防ぐことはできたのです。

安保理の拒否権問題についてはそうなのですが、そのように米ソが拒否権合戦を行っていた際にも、その米ソが核兵器の使用をチラつかせて威嚇するといった事態は起きませんでした。キューバ危機にしてもそうで、フルシチョフは基地は建設していたものの、直接アメリカに対して核攻撃を匂わすなどという行動には出ませんでした。

いずれにしても、核保有5大国には大きな責任があるというのが暗黙の了解です。それは相互に抑止するというのは確認済みであり、それ以上に5カ国の保有というのは、他の国に核が拡散しないための抑えであり、その抑えが政治的に効果を保つためには、5カ国は大きな責任、つまり核攻撃の威嚇などは「しない」というのが前提となっていたのです。

プーチンはこれを破壊しました。このことは非常に大きな意味を持ちます。NPTに限定して議論するのであれば、これは非常に安っぽく、また愚かな言動であり、これによってNPTという体制、そして思想は大きく傷ついたということです。

どういうことかというと、合法保有を認められているということに伴う責任を完全に放棄したからです。地上戦の戦況を挽回するために、戦術核の使用可能性を示唆するというのは、それが単なる舌戦であっても政治的・軍事的な意味を持ちます。威嚇としてある種の効果を持ちます。ですがそれと引き換えに、ロシアはNPTの合法保有国としての責任、つまり保有は抑止のためであり、核戦争の回避という目的のためにのみ合法保有しているという責任を放棄したということです。

さらに言えば、こういうことを言いたくはありませんが、ロシアの軽はずみな行動のために、NPTの保有禁止対象国、つまり合法保有の認められている5大国以外に対して、「不公平だから保有したい」という声を拡大させる危険もあるわけです。NPTという思想と仕組みは大きく揺らいだと言えます。

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