プーチン最大の誤算。“民度の高い”ウクライナ人の前に散る大国ロシア

2022.03.18
 

国際社会はロシアの言うことをまったく信じなくなった。例えば、ウクライナ南東部のザポロジエ原発で、火災が発生し、「ロシア軍が砲撃した」と批判された。ロシアは「ネオナチが占拠していたので排除した」と主張している。真実はわからない。ただ、国際社会はロシアが原発を攻撃したと決めつけた。

また、ロシアはウクライナでアメリカが資金提供する生物兵器研究の証拠を発見したと発表した。リビウ、ハルキウなどにある米出資の研究所が証拠をロシア側に渡さないよう炭疽、ペスト、サルモネラ菌などの生物兵器を破壊していると訴えたのだ。

ロシアの要請で国連安保理の緊急会合が開催された。だが、ロシアの主張を欧米は「無責任な陰謀論」と批判した。しかし、会合に出席した中満泉国連事務次長(軍縮担当上級代表)は「国連は、ウクライナでいかなる生物兵器計画も認識していない」とロシアの主張を完全に否定した。

「火のないところに煙は立たぬ」である。ロシアの主張はすべてフェイクとはいえず、一部は事実も含まれているのではないかとは思う。米国・NATOやウクライナに、なにも後ろめたいところがないともいえないだろう。ただし、重要なことは、さまざまな情報が飛び交う中、世界はウクライナを信じる。ロシアを信用していないということだ。情報戦で、ロシアは完全に敗北した。それは、誰もが容認できない「力による現状変更」を強行し、国際社会の信用を完全に失ったからだ。

「力による現状変更」は、ロシアの戦争の遂行そのものを困難にしている。たとえ、ロシアがウクライナ全土を征服しても、ウクライナ国民は決して屈することはないだろう。亡命政権ができて、ゲリラ戦が延々と続くことになる可能性が高い。ロシアによる無理やりな「力による現状変更」が、ウクライナ国民を完全に怒らせたからだ。

ゼレンスキー大統領の支持率は、ウクライナ紛争前の30%台から、90%台に跳ね上がった。大統領のロシアに徹底抗戦する姿勢が支持された。それは、ウクライナ国民の総意である。プーチン大統領の最大の誤算は、このウクライナ国民の「民度」の高さだと思う。

2004年のロシアによるクリミア半島併合後、ウクライナで自由民主主義が着実に根付いてきていた。ウクライナでは汚職防止や銀行セクター、公共調達、医療、警察などの制度改革が実施されてきた。民主的な選挙が実施され、政権交代で3人の大統領が誕生した。

一方、ロシアはウクライナの政情が不安定とみていた。ロシアのような権威主義の国では、指導者への支持率は80%を超えたりする。大統領の支持率が30%台というのは低すぎる。ゼレンスキー大統領の権力基盤は脆弱だと判断した。また、ロシアはネオナチ勢力が跋扈し、ロシア系住民が危険にさらされているとみていた。だから、ロシア軍がウクライナに入り、ゼレンスキー大統領とネオナチ勢力を追放に動けば、大歓迎されると楽観視したのだ。

だが、言論、報道、学問、思想信条の自由がある自由民主主義では、国民の考えは多様だ。野党が存在し、指導者への対立候補が多数存在する。指導者の支持率が約30%というのは、特に低いわけではない。また、あえていえば、極右・極左勢力が存在できる多様性も自由民主主義社会の特徴だ。ウクライナ国民の多数は自由民主主義社会を支持している。旧ソ連のような権威主義の社会に戻りたいとは思っていないのだ。

なにより重要なことは、香港、ミャンマーなど世界中でみられるように、自由民主主義を一度知った人々は、それを抑えようとするものに抵抗し続けて決して屈しないものだ。それが、自ら銃を取って民兵となったウクライナ国民だ。プーチン大統領の最大の誤算がここにある。

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