習近平がプーチンを説得か。ウクライナ紛争停戦「3つのシナリオ」

 

それでは、「中国が和平を欲する経済的な理由」「中国政局との関係」「現実的なシナリオ」の3つに分けて考察して参ります。

まず中国が和平を欲する理由ですが、中心となる理由は世界経済です。現在の中国経済は、多くの産業、とりわけエレクトロニクスと自動車の関連を中心に、全世界のほぼ全産業が取引相手となります。ということは、世界経済の安定ということが、中国の経済の利害とほとんど一致することになります。

その中国は、今回の全国人民代表会議での李克強総理の演説によれば、次年度の成長率5.5%を目標に掲げています。この5.5%ですが、日本など自由陣営とは意味合いが違います。自由陣営におけるGDPというのは、勿論政策的なターゲットはありますが、達成の主体は国家でもなければ政権でもありません。

官民合わせた自由な活動の結果がGDPであり、極論を言えばその目標値が未達だからといって、それで総理がクビになるわけではありません。勿論、経済が低迷すれば選挙で負けるわけですが、とにかく目標未達ということで自動的に政権の信頼が失墜するわけではありません。

ですが、中国の場合はこの目標達成というのは重たい意味を持ちます。つまりは、選挙で選ばれない共産党政権は、民意の洗礼を受けるチャンスがないわけです。ですから、仮に「良くないこと」が起きたとしても、選挙に勝って政治的パワーを挽回するという手段が使えません。勿論、政権は続くのですが、GDPが未達になるようですと、政権への信頼は揺らぎます。その結果として、漠然とした民意は不満を持つようになりますが、その不満は選挙というストレートな形ではなく、政敵が活性化するという政争の形を取って出てくるのです。

ですから、この目標というのは政権が安定的に政治を運営するには、非常に重要です。その上で、李首相はこの欄で既にご紹介したように、中国経済には3つの困難があると指摘しています。具体的には、「コロナ禍、サプライチェーン、ウクライナ」の3つです。

中でもウクライナについては、このまま事態が長期泥沼化すると、次の3つの問題がボディーブロウのように、中国経済を深く苦しめていくことになります。

1つは原油高、エネルギー高です。米国の制裁を非難することは簡単ですが、中国にはこれをひっくり返してエネルギー価格を下げる政治的戦略があるとは思えません。また、現在異常に露骨にロシアのエネルギーを輸入するというのも、全体的には無理があります。あまり露骨にやって米国が許容できなくなると、国際分業がある臨界点を超えて破綻するからです。

ということは、やはりこのウクライナの問題が早期に解決して、エネルギーのコストが下がるということは、中国経済の5.5%成長を達成するには必要であり、中国としてはそこに国益の相当な部分がかかっていると考えられます。

2つ目は、穀物です。ウクライナは小麦(世界7位)、とうもろこし(世界2位)などの生産高を誇り、世界の穀倉地帯の一角を占めています。現時点では、ロシアは穀物関係のインフラは攻撃していませんが、このままですと、交通・輸送のインフラが動かないとか、夏の冬小麦の収穫、春小麦の種まき(5月)などは不可能な状況になります。

中国はウクライナの穀物に大きな関心をはらって来ていますが、とにかくウクライナの問題が長引いて、穀物市場が大きく値上がりするということは、大口輸入国になっている現在の中国にとっては非常に厳しいことになります。特にこれから春になっていく季節において、ウクライナの穀倉地帯が稼働できるかは、中国にとって大きな影響があると考えられます。

3つ目は、対米貿易です。仮に中国がロシア政策に関して曖昧な態度を取り続けるとなると、トランプ以来の米国との「貿易戦争」についての「ウィン=ウィン」の解決は難しくなります。経済ということでは、米国との関係を再構築する必要はあり、米国側も中国が誠意を見せれば応じる可能性は大きいと思います。

政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報が届く冷泉彰彦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 習近平がプーチンを説得か。ウクライナ紛争停戦「3つのシナリオ」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け