ウクライナ侵攻作戦が思い描いていたように進まず焦るロシアが、可能な限りの攻撃手段を使って戦況を変えようとしているようです。3月18日には、極超音速ミサイル「キンジャール」を使用したと報道されています。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、軍事アナリストの小川和久さんが、現在のミサイル防衛システムでは迎撃できないとされるこの最新兵器の基本情報を伝え、対策を考察。基地から発射されるケースと、戦闘機や爆撃機から発射されるケースそれぞれに阻止する手段があることを伝えています。
極超音速ミサイルへの基本的な対策
3月18日、ロシア軍はウクライナ西部の地下軍事施設に対して極超音速ミサイル「キンジャール」を発射、破壊したと明らかにしました。2発目も20日に発射されたと発表されましたが、米国の専門家から1発目の着弾の動画はウクライナ東部の農村地帯のものだと指摘があり、ロシアによる情報操作の疑いが出ています。
極超音速ミサイル「キンジャール」の速度は音速の10倍のマッハ10、射程距離2000キロ以上、500キロの通常弾頭のほか100~500キロトンの核弾頭を搭載可能で、ミグ31戦闘機とツポレフ22M爆撃機から発射することができます。
20キロほどの高度をマッハ10で飛び、空気抵抗を利用して軌道を変えられることから、これまでのミサイル防衛では対処不可能とされています。しかし、これを迎え撃つ立場で考えるといくつかの対策が浮かんできます。
まず、母機(戦闘機や爆撃機)から発射するタイプには弱点があるということです。
航空優勢(制空権)が確立していないと母機を飛ばすことができませんから、ウクライナ侵攻ではロシア国内の上空から発射しようとするでしょう。キンジャールはカリーニングラード州の基地にも配備され、ウクライナを狙っています。ロシア本土はともかく、カリーニングラード州の基地は北がリトアニア、南はポーランドに挟まれた飛び地にあり、ポーランド空軍の防空旅団の地対空ミサイルの射程圏内にあります。ポーランド領空をかすめでもしたら、ただちに地対空ミサイルの餌食になると思う必要があります。
また、キンジャールを阻止するには母機が飛べないようにするだけでよいのですから、母機を地上で破壊するか、パイロットを割り出して拘束したり、家族を脅迫したりするといったことも出てくるでしょう。現に1999年のコソボ紛争ではユーゴスラビア側が米国防総省のシステムに侵入し、NATO(北大西洋条約機構)の空爆に派遣されている米軍パイロットの個人情報を入手、留守宅に脅迫状を送りつけたケースがあるのです。
さらに、母機の安全を考えて、最大射程の2000キロくらいから発射することになれば、目標まで10分以上かかることになります。現在のミサイル防衛では撃墜することが難しいとしても、米国のSBIRS(宇宙配備赤外線システム)で探知し、追跡することは可能ですし、無数の小型衛星によって監視するコンステレーションの配備も検討されています。そうなると、目標が破壊されることは避けられないにしても、通常弾頭型である限り、事前に避難して人的被害を避けることは可能です。
あとは、意表を衝いて奇襲的に使われないよう、母機、基地、パイロットと家族を監視することが基本と言うことになるのです。
高価な極超音速ミサイルの数には限りがありますから、防衛する側は浮き足立つことなく、重要な施設を極超音速ミサイルの直撃に堪えられるようにして、有効なミサイル防衛システムを実現すること、これが正攻法ということになります。(小川和久)
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