国産コロナ飲み薬「早期承認」に違和感。上昌広医師が疑問を呈した訳

2022.03.29
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by 上昌広
 

では、現時点で、両者はどのように評価されているのだろうか。まずは薬効だ。両剤を比較した臨床試験はないため、現時点で参考になるのは基礎的な検討だけだ。残念ながら、S-217622の旗色は悪い。抗ウイルス薬の薬効の指標となるEC50(薬物の最大効果濃度の50%濃度)は、パキロビッドパックは78ナノモルに対し、S-217622は310~500ナノモルもある。パキロビッドパックの方が遙かにコロナに対する抗ウイルス作用が強い。

一方、臨床医にとって使い安いのは圧倒的にS-217622だ。最大の長所は、パキロビッドパックと違い、併用禁止の薬剤がないことだ。実は、パキロビッドパックは使いにくい。それは、主成分のニルマトレルビルの濃度を上げるために、リトナビルを併用しているからだ。リトナビルは、ほかの併用薬の濃度も上げてしまうため、厚労省は32種類の薬剤の併用を禁じている。その中には降圧剤などありふれた薬も含まれる。パキロビッドパックを処方する度に、このような薬剤を休薬しなければならないのだから、面倒だ。

では、臨床医は、どちらを使うのか。私は、現状では、パキロビッドパックに分があるのではないかと考えている。それは、「エビデンス」が多いからだ。例えば、昨年11月、ファイザー社は重症化リスクのある外来患者774人を対象とした第3相臨床試験の結果を発表した。この試験では、パキロビッドパック投与により、入院や死亡のリスクが89%も低下した。「特効薬」と言っていい。

一方、S-217622の臨床的有効性については、前述の通りだ。現時点で臨床的有効性は不明だ。医薬品開発の世界では、検査データは改善するが、臨床的な効果は証明できなかった薬剤は枚挙に暇がない。この様な事情を考えれば、臨床的有効性が証明されているパキロビッドパックが存在するのに、臨床的には無効の可能性すらあるS-217622の処方は慎重であるべきだ。現時点でS-217622を処方することは、患者に不利益を与える可能性すらあるため、私を含め、多くの臨床医は使わないだろう。これが、S-217622の現時点での評価だ。

日本政府が、S-217622を確保して、医療現場の選択肢を増やそうと努力していることは大いに評価すべきだ。ただ、それなら、現状を正確に国民に伝えなければならない。この点で、日本政府の対応は不十分だ。

一方で、塩野義にはいっそうの奮起を期待したい。世界的メガファーマであるファイザーを相手に臨床開発競争をするのが大変なことは、私も理解している。ただ、塩野義には、S-217622とパキロビッドパックを比較した臨床試験を行い、その有効性を証明してもらいたい。医師、患者は、より有効な薬を待ち望んでいる。

上 昌広(かみ まさひろ)
医療ガバナンス研究所理事長。1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

image by: soraneko / Shutterstock.com

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