HISモバイルが月7GBで990円、NUROモバイルが月20GBで2090円などの新プランを発表。格安SIMを提供するMVNOの値下げ競争が止まりません。背景に総務省の施策による「将来原価方式」採用があると解説するのは、メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』著者で、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さん。ユーザーにとってありがたい値下げも、MVNO事業者の首を締め続けることになり、結果的に品質の劣化を招きはしないかと懸念を示しています。
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HISモバイルとNUROモバイルが新料金プランを発表──「将来原価方式」がMVNOの首を絞めてはいないか
今週、HISモバイルとNUROモバイルが新料金プランを発表した。HISモバイルは100MB未満であれば290円という、3Gサービス終了でケータイが使えなくなり、スマートフォンに乗り換えを余儀なくされる人に向けた安価なプランを提供。
NUROモバイルは昨年開始した20GBの「NEOプラン」から一部機能をなくすことで値下げを実現した「NEOプランLite」を開始した。NTTドコモがahamoで100GBというアップセルの方向を目指したのに対して、MVNOたちの値下げ競争が止まらない。
この春においても、mineoは昼間の時間帯が遅いが、それ以外は使い放題なプランを投入してきたし、IIJmioもギガプランで料金改定を行っている。NUROモバイルやHISモバイルが値下げの理由として掲げるのがMNOに支払う接続料の将来的な低廉化だ。
総務省の施策によって、接続料の将来原価方式が採用された。MVNOが安定して経営できるようにと、あらかじめ、今後、3年間、接続料がどれくらい変化するかを示すものだ。
接続料は適正な原価と適正な利潤を需要で割って単価が出てくる。5Gが普及し、データ通信の需要が増すことで、今後もさらに接続料が低廉化してくると思われる。
MVNOにとってみれば、3年後に接続料がどれくらい下がるかというのを提示されてしまっては、値下げに踏み切らざるを得ない。自分たちのところが様子見をしていても、どこかが値下げをしてくれば、ユーザーに逃げられてしまいかねない。
ここ最近の状況を見ると、将来原価方式が採用されたことで、MVNOは「値下げの沼」にハマってしまったのではないか。接続料がさらに下がれば、料金プランはさらに値下げせざるを得なくなる。
将来原価方式でなければ「来年、接続料がどのように動くかわからない。このタイミングで値下げをするのはリスクが高い。料金プランを維持しよう」という動きがMVNO業界全体に広まるような気がする。しかし、将来原価方式が導入されてしまったが故に「値下げをしない」という選択肢が潰されてしまったのだ。
菅政権の圧力により、MNOではオンライン専用プランが登場し、世界において日本は通信料金が安い国へと生まれ変わった。しかし、総務省がつくったルールをこのままにしておけば、さらなる料金値下げへの圧力が継続し続けることになる。そろそろルールを見直さないことには、MVNOの通信料金があり得ないことになりはしないか。
あるMVNO関係者は「ユーザーは安すぎても品質に不安を感じて選択肢から外してしまう」と本音を漏らす。通信はいざという時にも使えないと困るインフラだけに、激安すぎてもそっぽを向かれるだけのような気がしてならないのだ。
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image by:Koshiro K/Shutterstock.com