プーチンと習近平を引き離せ。日本が生き残りを賭けて展開すべき中ロ外交

 

今回の合意ですが、日本の排他的経済水域(200カイリのEEZ)で行われるサケ・マス漁の日本サイドの漁獲量は、サケ・マス合わせて例年並みの2,050トンとなっています。

また、ロシアに支払う「漁業協力費」というのは、漁獲高の結果に応じて変動するものですが、その最低保証額が昨年より6,000万円引き下げられ、2億円から3億円余りの範囲となったそうです。ロシア=ウクライナ戦争の影響で交渉が遅れて、漁船が出漁できなかったのですが、この合意を受けて北洋漁業の現場には安堵の声が流れているようです。

この3つは全て連動しています。宗男議員の「平和条約に希望はある」的な発言、俊一大臣の「G20で退席せず、批判してやった」という行動は、いずれもサケマス交渉を上手く進める動きと関係はあると考えるべきです。勿論、ロシアの側が「協力費の減額に応じた」のには、外貨不足の中で「切羽詰まった」事情があったのでしょうが、その辺も見透かしながら粘り強く交渉したというのは、一歩前進だと思います。

今回、北洋では知床岬付近で観光船が消息を断つという悲しい事故が発生しました。この事故に関しては、潮流を考えると遭難者が、ウトロ側から知床岬を右回りに回って流されて、国後の海域に至っている可能性があるわけです。

そこで、海上保安庁としては、4月25日に遭難者の捜索海域が国後付近に広がる可能性があるとして、ロシアに文書などで伝達したと報じられています。これは「海難救助に関する協定」に基づく対応だそうですが、ロシア側は協力姿勢を示したという報道があります。仮に、俊一大臣が米英と共に退席するなど、この間もロシアに強いメッセージを出し続けていたら、サケマス合意だけでなく、今回の捜索も難しくなっていたかもしれません。

問題は非常に単純であり、同時に重たい事実です。日本とロシアは隣接しており、お互いに動かせないということです。仮に、遠い未来に全千島が戻ってきても、最北の阿頼度島(日米航空航路からは富士山のような山の見える島です)とカムチャッカの間の海峡で日ロは対峙します。南樺太を取り返しても北緯50度線が国境ですし、仮に全樺太を取り返しても、間宮海峡でシベリア本土と対峙します。

とにかく、ロシアとは対立しても、どこかのレベルでは共存しなくてはならないわけです。勿論、相手が「変な気を起こさない」ように、防衛力によって抑止することは非常に大切です。ですが、それと外交チャネルを維持するということとは、また別の問題があるように思います。

私は、善幸式の粘りも、宗男式の身を削った調整も、全面的には支持しません。どこかに問題はあるように思うからです。北洋漁業の全体についても、資源管理の面で無理があり、また道東経済をどうやって衰退から救うのかという青写真がない中では、消耗戦になるからです。

ですが、安倍晋太郎=晋三の父子が、下関の水産業界を介して、「4島」または「2島」の返還ができれば、自分達は歴史に名を残せるとして、妙な工作を延々と続けたことに比べれば、まだ「マシ」であると思います。

そう考えると、岸田文雄の宏池会政権が、今回は「ウクライナ問題に関する米英協調」を堂々とやりながら、鈴木大臣の動きなどで「サケマス合意」と「国後海域での捜索への理解」を引き出したというのは、とりあえず地味ではありますが、実務的なプロの仕事だと思います。

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