ウクライナ侵攻の恐怖心を政治利用。敵基地攻撃能力を熱望する自民の姑息な手口

 

自民党安全保障調査会は、政調会の国防部会に属する組織である。小野寺五典氏を会長とし、石破茂氏、河野太郎氏、浜田靖一氏ら防衛大臣経験者が幹部メンバーとして参加している。

今回の提言案は、国防三文書といわれる国家安全保障戦略、防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を今年末までに改定するにあたり、党として政府に考えを示すのが目的だ。今年1月から議論してきて、その中心になったのが「敵基地攻撃能力」の保有だ。

政府はこれまで、ミサイルなどによる攻撃を防ぐのにほかに手段がないと認められる場合にかぎり、「敵基地攻撃」が可能だとする見解を示してきた。

わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨だとは、どうしても考えられない。そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば、誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。

(1956年2月29日衆院内閣委員会、鳩山一郎首相答弁)

しかし、「敵基地攻撃」を行う能力について政府は「自衛隊にはその能力がない」と答弁し、「敵基地攻撃」の是非についての論議を避けてきた。日米安全保障条約のもとでは、アメリカが「矛」、日本が「盾」の役割を担うことになっているからだ。

この点を踏まえ、今回の提言案では「憲法及び国際法の範囲内で日米の基本的な役割分担を維持しつつ、専守防衛の考えの下」と留保をつけたうえで、以下のように「敵基地攻撃能力」に言及した。

「弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力を保有する」

「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」という名称にすり替えることで、「日米の役割分担」「専守防衛」を逸脱していないイメージに誘導する思惑があるとみられる。

「専守防衛」は日本の防衛戦略の基本方針である。武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使する。その程度や装備も自衛のために必要最小限のものとしている。所詮、今回の提言案に言う「反撃能力」とは相容れない。

小野寺氏は記者団に「相手側の攻撃が、明確に意図があって、既に着手している状況であれば、判断を政府が行う」と説明した。実際に攻撃を受けていなくとも、着手したと判断すれば、こちらから攻撃できると言うのだ。しかも、後述するように、日本はすでに必要最低限とは言い難い長射程の攻撃的兵器を有している。

提言案では、防衛費の大幅増額についても明記している。NATO諸国が対GDP比2%以上を目標にしていることをあげ、「5年以内に必要な予算水準の達成を目指す」とした。今年度予算の防衛費は5兆4,005億円で、対GDP比は0.96%ほど。2%といえば、10兆円をこえる防衛予算をめざすことになるが、財源はどうするつもりなのか。

自民党内で、敵基地攻撃能力の保有を求める声が高まったのは、安倍政権(当時)が北朝鮮からの弾道ミサイルを迎撃する目的で導入を閣議決定した新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備を2020年6月に断念したのがきっかけだった。イージス・アショアをやめるのなら、敵基地攻撃能力を持つべし、というわけだ。

しかし、すでにこのころには敵基地攻撃能力を有する兵器の導入は着々と進んでいた。ノルウェー製の長距離巡航ミサイル「JSM」、ロッキード・マーチン製の空対地ミサイル「JASSM」などの購入と、「高速滑空弾」「極超音速ミサイル」の自国開発が決定したのは2017年末だった。

むろん、これらの兵器は憲法違反の疑いが濃い。

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