アメリカ最大の政治的な話題はロシア=ウクライナ戦争ではない現実

 

まず、ゴーセッチ判事ですが、彼はスカリア判事の後継です。このスカリアという人は保守派ですが、オバマが任期を1年残した2016年2月に死去しています。ですから、オバマは後任としてリベラルのガーランド判事(現在は司法長官)を指名したのですが、共和党は「任期切れに近い大統領の判断はダメ。選挙結果を見てから評決すべき」と言ってガーランド人事を潰したのでした。その結果として、2016年11月にトランプが勝ったので、その就任を待って4月に保守派のゴーセッチを送り込んだのです。

次にカバナー判事ですが、彼はケネディ判事(中道)が引退に追い込まれた後に指名されました。ケネディがどうして引退に同意したのかは、今でも謎とされています。また、カバナー判事は、若い時に酒癖が悪く女性への暴力事件を起こしたという疑惑があり、承認プロセスは紛糾しましたが、共和党が押し切った格好です。

現時点で一番新しい判事のバレット判事は、保守派の女性で2020年10月の承認です。彼女は、亡くなったギンスバーク判事の後任ですが、ギンスバーク判事の場合は、2020年9月の死去、つまり大統領選挙の2ヶ月前ということで、4年前のスカリア判事の2月死去と比較すると、遥かに選挙に近いわけです。

だったら、ガーランド承認を繰り延べたのを前例とするならば、バレットの承認も選挙後にするべきですが、そこはトランプの共和党ですからプーチンと同じく、ルールというのはあくまで手段と考えたようで、強引にバレットを判事にしてしまったのでした。

ちなみに、故ギンスバーク判事は高齢で体調の問題もあり、オバマ時代に引退してリベラル派に判事席を継承する方法もあったのですが、「次はヒラリーだから大丈夫」という周囲の気の緩みがあったという噂があり辞任のタイミングを逸したという説があります。反対に、続投後はトランプが大統領の間は死ねないとして、頑張っていたのですが力尽きた格好となりました。

そんなわけで、それぞれに相当な政治的闘争の「成果?」として、トランプは、3人の保守派を最高裁に送り込んだのです。そして、その結果として現状はどうかと言いますと、

(中道)ロバーツ長官

(保守)トーマス、アリトー、ゴーセッチ、カバナー、バレット

(リベラル)ソトマイヨール、ケリガン、ブレイヤー(承認済みのジャクソンと7月までに交代)

というわけで、1/5/3という比率になっています。保守派としては、過半数の4どころか5を占めて圧倒的な力を持っているわけです。ちなみに、ロバーツ長官は、ブッシュが保守派として指名して就任していますが、最高裁長官という立場の重みをよく理解して、現在は中長期的な歴史評価を意識して「最高裁としての憲法判断の一貫性」という観点から評決を下すことが多くなりました。

さて、そんなわけで保守派の優勢となっている最高裁ですが、以前から「ロウ&ウェイド判例(1973)」つまり「人工妊娠中絶は合憲」という判例を「ひっくり返すのでは」という噂が流れていました。

これは保守派の「悲願」であったことから、現在は「千載一遇のチャンス」であるばかりか、仮に「違憲化」ができれば保守勢力としては勢いに乗って中間選挙へ向けて党勢拡大ができるなどという話になっているわけです。

そんな中で、5月2日にメジャーな政治サイトの「ポリティコ」が、最高裁のアリトー判事が起草したとされる「中絶判例の変更」を述べた判決意見書の草稿をリークするという事件が起きました。そもそも、最高裁判事の判決文というのは、国家の根幹を構成する文書ですから、それが草稿段階で漏洩するというのは、あってはならない事件です。

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