アメリカ最大の政治的な話題はロシア=ウクライナ戦争ではない現実

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アメリカで1973年に認められた人工中絶の権利を認める判決について、その判例変更の可能性が記された最高裁の草案が流出し、全米が大きく揺れています。日本では語られることが少ない中絶問題がですが、なぜアメリカでは頻繁に議論され、殊に共和党は頑ななまでに中絶反対にこだわるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、「あくまで私見」と断りを入れた上で、米保守派が中絶を認めない理由を6つ挙げ、それぞれについて持論を展開。彼らが「中絶反対」という姿勢が絶対的な正義だと思うに至る背景を解説しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年5月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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異常な執着。アメリカ共和党が「中絶禁止」にこだわる6つの理由

アメリカで現在最大の政治的な話題は何かというと、それはロシア=ウクライナ戦争ではありません。また、コロナ禍でもないし、インフレや株安の問題でもありません。先週から急に大きな問題として浮上しているのは、「妊娠中絶の禁止」問題であり、具体的には「中絶合憲判決」に対して最高裁が「判例変更」を行うのではないかという問題です。

どうして最高裁で判例変更が起きそうなのか、この問題を考えるにはトランプ時代に遡る必要があります。

2016年に選出されて、2017年1月から21年1月までホワイトハウスに居座っていたトランプの時代、その後半はコロナ禍、そして選挙をめぐる議会暴動など異常な事件に彩られていました。今のところ、トランプ時代といえばコロナと暴動ということになりますが、もう少し先の時代になってから歴史的にこの4年間を振り返るのであれば、もしかしたらロシアの諜報活動に翻弄された時代という評価になるのかもしれません。

この点に関しては、今後の展開次第というところですが、もう1つトランプ時代を象徴するものとしては、最高裁判事に3名の保守派を送り込んだという事実です。アメリカの最高裁判事は終身雇用であり、一旦任命されると本人が辞任もしくは死去するまで任に当たることになっています。

ですから、大統領の任期において最高裁判事を任命するというのは、非常に重たい判断になります。最高裁判事というのは、まず大統領が指名して、これを上院が審議して承認するというプロセスが取られます。この指名と承認という制度ですが、以前は極めて行儀よく行われていました。

つまり大統領は連邦判事としての経験と能力を吟味して候補を指名し、これに対して上院の100名の議員はできるだけ党派を超えた判断をするというものです。例えば、現在引退を表明しているスティーブン・ブレイヤー判事(リベラル、1994年就任)の場合は民主党のクリントンが指名したわけですが、上院では「賛成87・反対9」という評決で承認されたのでした。

例えばロバーツ長官(元保守、現在は中道、ブッシュ指名、2005年就任)の場合も「78対22」、その他の現職ではオバマが指名した2名、ソトマイヨール判事(2009年就任)が「68対31」、ケーガン判事(2010年就任)が「63対37」ということで、超党派の支持を受けて就任しています。

実はこの間、上院ではルール変更があり、以前は「100名中60」が承認ラインだったのが、単純過半数である「51」あるいは副大統領がキャスティングボードを握っている中では「50」でも良いというルールになっています。

また、リベラル判事の場合は、共和党政権の期間に引退したり亡くなったりしてしまうと、保守派にその地位を奪われてしまうので、民主党の大統領の間に交代しようとか、その逆とか露骨な駆け引きが出てきているのも最近の傾向です。

そんな中で、どうしてトランプは3名も指名できたのかというと、これは非常に特殊な条件が重なっています。

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