そうした具体的な問題に対処して、改善の結果を出さず、反対に戦争を仕掛けたわけでも何でもない中国にたいして、惰性的に「包囲網」を続ける、しかもその内容は不徹底というのでは、効果的な政策とは言えません。
仮にそうだとして、バイデンの側には一応の理屈はあるわけです。
「トランプが破壊したNATOの結束、日米韓の結束を回復したい」
「どう考えても、自由と民主、人権という価値を認めない中国は囲い込みたい」
「環境問題は重視しないと党内左派、若者票が逃げるので徹底的にやる」
「その一方で、トランプが火をつけた自国中心主義、保護貿易主義を元に戻す勇気はない」
というのが、バイデンの原理原則なのでしょう。それはそれで筋が通っています。通っていますが、とにかく「完全に古い」ですし、「ウクライナ戦争発火後」という現在、そして「ゼロコロナ破綻で苦しみながら、政争による意思決定を目指す中国」という状況をまるで分かっていないのは事実だと思います。
何よりも、これでは中国を離反させるだけです。では、中国はロシアを擁護して、ダークサイドに行ってしまうのかというと、そんなことはなく、前述したように、米国がいつまでもウクライナ和平に踏み込まない場合には、
「中国とEUによる停戦の仲裁」
という逆転打を打たれて、日米は政治的な惨敗を喫する可能性があるわけです。
そんな中で、岸田政権は、脳天気なまでにバイデン路線に「忠犬ポチ」状態なわけですが、これには理由があります。日本の政治決戦は参院選で、7月にあります。つまり残り2ヶ月もないのです。ということは、
「ウクライナを擁護する日米韓 対 悪の枢軸中ロ」
という単純な対立構図を描いて走れば、支持率65%のまま投票日を駆け抜けることができるかもしれないのです。今回の東京QUADも、本当はそこが岸田政権の大きな狙いかもしれません。
しかしながら、結局は防衛費増額(イコール、周辺国との対立エネルギー激化、リスク引き受けのシェア増大)を呑まされ、まんまとバイデンの罠に引っ掛かっているという面もありますが、とにかくそれも含めて、参院選対策ということではメリットがあるわけです。
一方で、アメリカの中間選挙は11月です。半年は切りましたが、5ヶ月以上あります。この間、対立を続け、停戦仲介をしないということでは、原油は下がらないし、その結果として、アメリカのインフレは収束せず、そのままスタグフレーションに陥ってしまう危険があるわけです。
バイデンは完全に判断ミスをしており、もしかしたらここが時代の転換点になるかもしれません。
ところで、岸田総理は、今回「中国との核軍縮交渉を」などという発言もしています。中国の軍事力に関して、より透明度を高めるような要求もしたいようです。また、G7を広島でということも浮上しています。
これは「絶対的に正しい」ことだと思います。中国は、あくまで技術立国そして経済によって世界の民生を支える国であって、軍事大国から軍事覇権国を狙うのは間違っています。それは中国の軍事力が怖いからではなく、覇権を狙う中で帝国が動揺し瓦解するのであれば、その火の粉が日本にも降り注ぐからです。
ですから、中国の軍拡には反対し、まして日本も攻撃対象となっているような核弾頭については、その縮小を要求するというのは絶対に必要なことだと思います。そして、正義はこちらの側にあると言っていいでしょう。
広島サミットも大事です。いいことです。
ですが、そのタイミングは「今」ではないと思います。
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