小泉悠氏が探る「核シェアリング」を匂わすプーチン大統領の意図

 

このようにしてみると、かなり玉虫色のやり取りである。まずNATO国境での「鏡面的対応」だが、ロシア空軍機も頻繁にバルトや北欧方面に戦術航空機を飛ばしているわけで、この点はロシアもNATOも最初からお互い様であろう。「双方すでにやっている」ことなのだから、やるとかやらないとかの話ではない。

第二に、ベラルーシ空軍機への核搭載改修については、わざわざSu-25と名指ししてきたところが面白い。Su-30SMのような戦闘爆撃機ではなく、低速のSu-25攻撃機に限って核搭載能力を付与するということは、ベラルーシが戦場になった場合にしか使えない核であるということを暗示しているように思われる。

仮にこれが実現するならば、確かに米国と欧州がやっている核シェアリングと同じモデル(自国領に核を落とさねばならない時、自国の軍隊がそれを担うことで核使用の信憑性を確保する)となろう。おそらくプーチンからすると、NATOを過度に刺激せず、なおかつベラルーシがロシアの緩衝地帯であることを認めさせたということになるのではないか。

最後のイスカンデル-M供与の話は前から決まっていたものではある。また、イスカンデル用の9M723弾道ミサイルに核弾頭が用意されていることも周知の事実である。

ただ、外国に供与するミサイルについて「核弾頭も積める」とプーチンが発言することは普通なく、さらに発言の文脈も考えるならば、有事にはベラルーシ軍のロケット部隊に核弾頭を提供するという意味が込められていよう。

ただ、ベラルーシと核シェアリングを行うとすると、ベラルーシ国内とかロシアの西部国境に核弾頭の前方展開貯蔵施設が必要になる。現在のロシアはまだ冷戦時代の前方展開貯蔵施設を再建する動きを見せておらず(プーチンがいう「そのような基地はない」というのはこの意味であろう)、これが現実のものとなるまでは当面、核シェアリングは言葉の上に留まるのではないか。(メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年6月27日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Gil Corzo/Shutterstock.com

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千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

 

ロシアの軍事や安全保障についてのウォッチを続けてきました。ここでは私の専門分野を中心に、ロシアという一見わかりにくい国を読み解くヒントを提供していきたいと思っています。

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