フィンランドとスウェーデンの誤算。NATO加盟が導く破滅的な未来

tnk20220707
 

加盟30カ国による「加盟議定書」の署名も終え、残すはすべての加盟国内での批准手続きのみとなったスウェーデンとフィンランドのNATO正式加盟。しかしこの北欧2カ国の決断を、「大きすぎる過ち」とする見方もあるようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では著者で国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、彼らのNATO加入がなぜ誤った選択であるかを詳細に解説。さらにこの判断ミスが2カ国にもたらす望ましからざる未来を予測しています。

フィンランドとスウェーデンNATO加盟の自滅

北欧のフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請することになった。北欧2カ国の政府は、5月15日に相次いでNATO加盟の意志を正式に表明した。2カ国は、ソ連敵視の米国側軍事同盟として冷戦初期に作られたNATOに加盟せず、軍事安保的に中立を保ってきた。フィンランドはソ連(ロシア)と1,000キロ以上の国境を接しており、ロシア帝国やソ連の一部だった時もある。フィンランドはソ連に取られた領土回収を目指して第2次大戦でドイツに味方したが、ドイツが負けたため再びソ連の影響を受けるようになり、冷戦中も米同盟国にならず中立を維持した。スウェーデンは、ドイツの脅威を避けるため2度の大戦で中立を宣言し続け、その後の冷戦期にも中立を維持してNATOに入らなかった。このように北欧の2カ国は、周辺の諸大国間の対立や戦争に巻き込まれないための外交安保的な知恵として、中立やNATO不加盟を貫いてきた。ところが2カ国は今回、ウクライナ戦争で米国とロシアが激しく対立する中で、過激にロシアを敵視するNATOに入ることにした。これは2カ国の歴史上、画期的な方針転換である。

Finland’s President Informs Putin Of Application To Join NATO
Finland-Russia relations – Wikipedia

2カ国は、NATO加盟の国家的な意志をほぼ固めた。NATO側では、ロシアとも親しいトルコが2カ国の加盟に反対する素振りを見せている。加盟承認は全会一致が原則なので、トルコが反対し続けると2カ国は加盟できない。だが、2カ国のNATO加盟はバイデンの米国が強力に推進している。エルドアン大統領のトルコはちゃっかりな国で、米国から軍事安保面の大きな贈り物をもらえるなら、トルコは反対しなくなる。米国は今後おそらくトルコが満足する軍事安保的な贈り物を与え、トルコは反対をやめ、2カ国はNATOに加盟する(クロアチアなど、トルコ以外にも反対する加盟国が正式に出現すれば変わるかも)。

NATO ‘confident’ of overcoming Turkey’s objections
NATO countries spoke out against the admission of Finland to the Alliance

北欧2カ国は、なぜNATOに入ることにしたのか。「ウクライナで戦争犯罪を続けるロシアを許せないからだ」と思う人が多いかもしれないが、その考えは間違いだ。2カ国がこれまでNATOに入らなかったのは、自国の安全を守るためだ。他国間の戦争でどこかの国が戦争犯罪を犯したとしても、それを理由に2カ国がNATOに加盟することはない(そもそもウクライナでのロシアの戦争犯罪とされるものは濡れ衣ばかりだし)。2カ国がロシア敵視のNATOに加盟するのは、ロシアを敵視しても自国の安全が脅かされないと2カ国が考え始めたからだ。2カ国の上層部は、ロシアがウクライナ戦争で作戦を失敗し続けて露軍の疲弊やロシア国民の厭戦気運がこれから強まり、近いうちにロシアが経済破綻や政権崩壊してプーチンが失脚して大混乱・弱体化していくという、米国側の諜報界とマスコミ権威筋が言っている予測が正しいと思っているのだろう。

Ukraine can defeat Russia – NATO
UK and Sweden Say Relations With Putin Can Never Be Normalized

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