「国葬」と聞いて思い出す、勲章も社葬も固辞した石田礼助氏の逸話

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岸田文雄首相は、参院選の遊説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の「国葬」を実施すると表明。賛否の声が渦巻くなか、7月22日の閣議で9月27日の挙行が決定しました。「国葬」の報に接した時に三井物産の役員や国鉄総裁を務めた石田礼助氏を思い出したと語るのは、評論家の佐高信さん。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、生前には勲章を断り、遺言で社葬も固辞していた石田氏の言動を紹介。汚職事件のキズを持つ先輩の大臣就任を諌めた時の「日本人は極めてケッペキ」の言葉が、現代では通用しなくなったと、“モリカケ、桜”のキズを持つ元首相の「国葬」への疑念を表明しています。

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日本人は極めてケッペキか?

国葬なのだという。それを聞いて私は、城山三郎が『粗にして野だが卑ではない』(文春文庫)で描いた石田礼助の遺言を思い出した。三井物産の役員をし、国鉄総裁となった石田は、勲一等を送ると言われ、「おれはマンキーだよ。マンキーが勲章下げた姿見られるか。見られやせんよ。キミ」と言って断った。

次の遺言の中のママは夫人のつゆを指す。

  • 死亡通知を出す必要はない。
  • こちらは死んでしまったのに、第一線で働いている人がやってくる必要はない。気持はもう頂いている。
  • 物産や国鉄が社葬にしようと言ってくるかも知れぬが、おれは現職ではない。彼等の費用を使うなんて、もってのほか。葬式は家族だけで営め。
  • 香典や花輪は一切断われ。
  • 祭壇は最高も最低もいやだ。下から2番目ぐらいにせよ。
  • 坊さんは1人でたくさんだ。
  • 戒名はなくてもいい。天国で戒名がないからといって差別されることもないだろう。
  • 葬式が終わった後、「内々で済ませました」との通知だけだせ。
  • ママは世間があるからというかも知れぬが、納骨以後もすべて家族だけだ。
  • 何回忌だからといって、親族を呼ぶな。通知をもらえば、先方は無理をする。
  • それより、家族だけで寺へ行け。形見分けをするな。つゆが死んでも同じだ。

77歳で国鉄総裁にかつぎだされた石田は国会で背筋をピンとのばし、議員たちを見下ろすようにして「諸君!」と呼びかけた。「生来、粗にして野だが卑ではないつもり。ていねいな言葉を使おうと思っても、生まれつきできない。無理に使うと、マンキーが裃を着たような、おかしなことになる。無礼なことがあれば、よろしくお許し願いたい」と断った上で、「国鉄が今日のような状態になったのは、諸君たちにも責任がある」と言い放った。

赤字を構わずに選挙区に鉄道を引いたからである。「我田引水」ならぬ「我田引鉄」と言われた。もっともな批判だが、誰にも言える言葉ではなかった。

石田は若き日に、物産の先輩である山本条太郎に、「大臣になろうと思うが、君の意見は」と尋ねられ、ズバリと答えた。「あなたの眉間にはシーメンス事件のキズがある。日本人は極めてケッペキ。おやめなさい」。山本の顔色が変わるような直言だった。

石田の言うように「日本人は極めてケッペキ」かどうかは疑わしいが、石田自身は潔癖だった。今度の国葬の主にはモリ、カケ、桜といったキズがある。それを含めての国葬だとするならば、「日本人は極めてケッペキ」という石田の評価を返上しなければならないだろう。

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