7月29日、米国のブリンケン国務長官とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が電話で会談。ウクライナ侵攻後初の両外相による直接協議について、日本と欧米ではメディアの伝え方のニュアンスに違いがあったようです。「日本のメディアは善悪を決めるとそのストーリーから抜け出せない」と指摘するのは、メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で拓殖大学教授の富坂聰さん。欧米のメディアはウクライナ批判も少しずつ始めていると、流れの変化に応じた動きを紹介するとともに、米国側がアプローチして実現した会談の意図を解説しています。
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日本メディアが伝えない米ロ外相会談の真の意図
アメリカが外交攻勢をかけている。注目は何といってもロシアのウクライナ侵攻後途絶えていた米ロの動きと、米中首脳の接触だろう。アントニー・ブリンケン国務長官とセルゲイ・ラブロフ外相、そしてジョー・バイデン大統領と習近平国家主席のそれぞれ電話会談だ。
米ロ外相の電話会談では、その報じ方でニュアンスが大きく異なる。例えば日本側の見出しはこうだ。
●〈ブリンケン米国務長官、ロシア外相に警告…支配地域併合なら「重大な代償を払う」〉(『読売新聞』7月30日)
●〈米、ロシアのウクライナ併合計画に警告〉(『毎日新聞』7月30日)
●〈米露外相が電話会談 侵攻後で初 占領地併合「決して容認しない」〉(『産経新聞』7月30日)
一方、欧米メディアは少し違う。
●〈米ロ外相、ウクライナ侵攻後初の電話会談 ブリンケン氏「率直な会話」CNN7月30日〉
●〈米ロ外相が電話会談、拘束の米国人解放や穀物輸出など巡り協議〉(ロイター通信7月30日)
ヤフーの検索結果を並べてみたがニュアンスの違いは鮮明だ。やはり善悪をはっきり分けた日本のメディアは客観的とは言えない。
まず米ロの会談をロシアが積極的にアプローチした事実はない。中国メディアは、ブリンケンが「数日のうちにロシア側と会談」と語ったことに対し、ロシアが「聞いてない」(ラブロフ)とそっけなく否定したやり取りを詳細に伝えていた。
善悪を決めるとそのストーリーから抜け出せなくなる日本のメディアは、この先さらに複雑化する国際情勢に対応してゆけるのだろうか。
欧米のメディアは、専制主義の独裁者としてロシアを徹底的に叩く反面、流れの変化に対応して手のひら返しも得意だ。最近では暫く鳴りを潜めていたウクライナ批判にも少しずつ触れるようになっている。
イギリスBBCは、欧州連合(EU)がなぜウクライナのEU加盟にハードルを設けてきたのか、ニュース番組で特集。ウクライナが自国の身体障碍者施設で行ってきた人権侵害の実態を現地取材で詳しく報じた。
アメリカのテレビ・PBSは、今月27日、ウクライナの戦況を現地から伝えた。レポーターは同17日に攻撃を受けた倉庫前から伝えたが、その内容は予定調和ではなかった。
レポーターは「ウクライナ軍はここを民間施設と声明したが、現地で取材した結果、基地として使っていた証拠をつかんだ」と断じたのだ。理由は「遺体の運び出しを手伝ったボランティアが『ウクライナの将校や兵士が40人ほどいた』と証言した」からだった。
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