「冬への備え」。日本メディアが伝えない米ロ外相会談の真の意図

 

番組ではさらに、なぜロシア側が秘密基地を特定できたのか、について「秘密基地の情報は清掃係の女性がロシアに100ドルで提供した」という証言も得ていた。

ウクライナ軍の情報をロシアに売る現実があることを同地の首長も認め、「(裏切り者は)大勢いるわけではないが、一人でもいれば大打撃を受ける。みな、これを単なる儲け話だと思っているようだが、いずれ刑事罰を与える」と取材に応じて語っている。不都合な話だが、「ウクライナの人々がみな団結し国のために戦っている」という杓子定規な顔だけが戦争を語ることはできない。

さて、話を米ロ外相会談に戻そう。今回、接点を求めたアメリカ側の動機は何だったのか。中国の多くの国際政治・安全保障の専門家たちは「冬への備え」だと口をそろえた。

ウクライナの戦況について、アメリカが提供したハイマースなど中射程で破壊力のある兵器がロシア軍のロジに一定のダメージを与えたことは間違いない。だがロシア側も戦術を再調整し、全力でウクライナの攻撃力を抑制し、効果を上げているという。全体としてロシアはいま支配している地域を守るだけの能力は維持している、と語った。

その上で「冬」を重視する意味を、「川や広い湿地帯が凍れば橋も必要なくなり、ロシア軍の行動が飛躍的に改善され、優勢になる」と語っている。同時にヨーロッパも本格的なエネルギー不足を体感し始めることで団結が揺らぐとの見立てだ。

この論理が正しければウクライナが8月の反攻を重視するのは当然だ。またウクライナを裏で支えるアメリカも、大地が凍った後の国際情勢を視野に入れざるを得ないのだ。当然、中間選挙に向け、見栄えの良い環境を整える必要に迫られるのだ。

現状、アメリカの有権者の興味はウクライナよりも国内のインフレに向いている──ドナルド・トランプ元大統領の問題よりも──が、インフレとウクライナ戦争が再び結びつくのも時間の問題だろう。バイデン大統領は7月13日から中東を訪れ石油の増産などを迫った。これもインフレ対策の一つだが、各メディアで「手ぶら外交」と揶揄されたように、訪問は空振りだった。

(メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年7月31日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

【関連】世界中がエネルギー不足に襲われるなか、中国がしのげている理由

image by:MAHATHIR MOHD YASIN/Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print
いま読まれてます

  • 「冬への備え」。日本メディアが伝えない米ロ外相会談の真の意図
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け