UUUMとANYCOLORのビジネスモデルの違いは粗利率に現れる
売上高の構成からビジネスモデルの違いがわかったところで、続いて収益性について具体的に見てきましょう。図表8は、UUUMのP/Lを滝チャートで表現したものです。
図表8
UUUMの利益率がそれほど高くない理由は、ひとえに売上原価が70%もあるためです。この売上原価というのは、YouTuberに支払うものです。すなわち、YouTube番組からの広告収入やタイアップ広告で得られた収益のうち、70%はYouTuber等へ支払われ、残りの30%がUUUMの売上総利益となるわけです。そのため、UUUMはどうしても原価率が高い、労働集約的なビジネスモデルになってしまうということです[2]。少なくとも今のように広告ビジネスを中心に据えるとなると、この利益構造は簡単に変えることは出来ません。
では、ANYCOLORはどうでしょうか。
図表9
ANYCOLORの原価率は58%とUUUMの70%と比べるとかなり低いです(図表9)。その理由は、ANYCOLORの売上の多くはコマースとライブストリーミングで稼いでいるためです。すなわち、YouTuberへの支払いが多くかかるUUUMとは異なり、原価率が抑えられているのです。
[2]UUUMのビジネスモデルについては以下の拙著の記事をご参照願います。
● 年間動画再生474億回。YouTuber事務所最大手UUUMのコスト構造に見る成長戦略の「泣き所」 Business Insider
ANYCOLORの売上に占める広告宣伝費の割合はわずか1%
低い原価率に加えて、ANYCOLORの注目すべき点は売上高に占める販管費及び一般管理費の割合が13%と、UUUMの26%の半分しかないところです。その結果として、ANYCOLORの営業利益率30%と、文字通り桁違いの利益率を叩き出しています。
ANYCOLORの販管費がUUUMよりも低い主な理由は、人件費にあります。UUUMの従業員数は572人に対して、ANYCOLORの従業員数は230人と半分以下です。このこともあり、売上高に占める給与の割合は、UUUMの10%弱[3]に対して、ANYCOOLORはわずか4%弱と半分以下になっているのです。
加えて、ANYCOLORの営業利益率の高さを支えているものとして、低い広告宣伝費もあげられます。ANYCOLORの広告宣伝費は1.6億円で、売上に占める割合はわずか1%です。
通常、Eコマースにおいては、店舗等の不動産賃貸料がかからないものの、認知を高めるために広告宣伝費が必須になります。多くのECコマース企業においては、売上に占める広告宣伝費の割合(以下、広告宣伝費率)は15~20%程と言われています。楽天の認知度を持ってしても、広告宣伝費率は21%にもなっているのです。
ECでかなり成功をしていると言われ、8月に上場をしたD to C(Direct to Consumer)のビジネスを手掛けるクラシコムでさえも広告宣伝費率は7%です[4]。
このクラシコムと比較してみると、ANYCOLORの広告宣伝比率1%は驚異的です。ANYCOLORにおけるコマースビジネスの売上高66億円だけで計算しても広告宣伝費率は2.5%とクラシコム7%の半分を大きく下回っています。
これだけ低い広告宣伝費率で、Eコマースビジネスが成り立っている理由は、V Tuberを通じて、顧客接点を長い時間持っているからだといえます。D to Cの成功形と言われるクラシコムも、実質メディア企業としてコンテンツを強化することで、Eコマースビジネスを伸ばしてきました。ANYCOLORの場合は、動画とキャラクターという2つを用いて一層コンテンツを強化し、顧客の滞在時間を長くすることで、低い広告宣伝費率を通じた高い利益率のビジネスモデルを確立できるようになったといえます。
[3]UUUM 2021年5月期の有価証券報告書より計算
[4]このように低い広告宣伝費割合が実現できているのは、クラシコムの世界観のためと言われています。詳細は以下の拙著の記事をご確認願います。
● 「北欧、暮らしの道具店」運営のクラシコム上場へ。年間2000万リーチの高収益D2Cはいかにして生まれたか Business Insider