打ち砕かれたプーチンの野望。ロシアの軍事的完封に成功した欧米

2022.08.05
 

元々、フランスのエマニュエル・マクロン大統領やドイツのオーラフ・ショルツ独首相らは、対話によって早期の停戦を何とか進めようとする立場だ。ウクライナ戦争開戦後も、プーチン大統領、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と対話を粘り強く続けてきた。これからは、より強く停戦の仲介に動く可能性がある。

一方、ウクライナを強力に支援し、ロシアに対する経済制裁を主導してきた英国のボリス・ジョンソン首相が不祥事の責任を取って辞任を表明した。これら首脳間のパワーバランスの変化によって、今後欧米諸国の結束が乱れていく懸念がある。

ウクライナ戦争の戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになる。それは一見、「ロシアの勝利」を意味するように思われる。

だが、欧米は、エネルギー供給不安という負い目だけで停戦を急ぎ、「ロシアの勝利」の既成事実化を許すわけではない。むしろ、ロシアに対する勝利を確信したからこそ、エネルギー供給不安を我慢して戦争を継続する意義がなくなっているからなのである。

欧米のロシアに対する勝利を決定づけたのが、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟決定だ。この両国は、長年NATOとロシアの間で「中立」を守ってきた。スウェーデンは、過去200年以上に渡り軍事同盟への加盟を避けており、第2次世界大戦中でさえ中立を保ってきた。一方、ロシアと1,300キロメートルに渡って国境を接しているフィンランドは、ロシアとの対立を避けるために、NATO非加盟の方針を貫いてきた。その両国が、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて、中立政策の歴史的な転換を決定したのだ。

加盟交渉は当初、NATO加盟国の1つであるトルコが反対して難航するかと思われた。だが、あっさりとトルコは翻意した。前述のように、トルコはロシアとも密接な関係を保ってきた。ウクライナとロシアの停戦交渉の仲介役を担ったこともあった。ウクライナ戦争をめぐり、最もしたたかにふるまっている国だといえる。そのトルコが、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟を認めた背景には、米国などから相当の「実利」を得られたからだろう。

いずれにせよ、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟が正式に決定した。両国のNATO加盟は、単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与えることになる。

まず、地上において、NATO加盟国とロシアの間の国境が、現在の約1,200キロメートルから約2,500キロメートルまで2倍以上に伸びることになる。ロシアの領域警備の軍事的な負担が相当に重くなる。

海上においても、ロシア海軍の展開において極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。バルト海にNATOの海軍が展開し、ロシア海軍の活動の自由が厳しく制限されることになるのだ。

その上、EUはウクライナとモルドバを加盟候補国として承認し、ジョージアについても、一定の条件を満たせば候補国として承認する方針で合意した。正式な加盟には長い年月がかかる。だが、今後これらの国では、民主化がますます進み、経済的にEUと一体化していくことになる。

ウクライナは、ロシアによる軍事侵攻が始まった直後の2月末に、EU加盟を正式に申請し、モルドバ、ジョージアもそれに続いて加盟申請していた。つまり、ロシアの軍事侵攻という行為自体が、NATO、EUの東方拡大をさらに進める結果となり、それは旧ソ連領だった国にまで及ぶという結果となってしまったということだ。

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