打ち砕かれたプーチンの野望。ロシアの軍事的完封に成功した欧米

2022.08.05
 

私がこれまで何度も主張してきたことだが、そもそもウクライナ戦争が始まる前から、ユーラシア大陸における勢力争いで、ロシアは欧米にすでに敗北していた状況だった。

東西冷戦期、ドイツが東西に分裂し、「ベルリンの壁」で東西両陣営が対峙した。旧ソ連の影響圏は、「東ドイツ」まで広がっていた。しかし、東西冷戦終結後、旧共産圏の東欧諸国、旧ソ連領だった国が次々と民主化した。その結果、約30年間にわたって北大西洋要約機構(NATO)、欧州連合(EU)は東方に拡大してきた。

ベラルーシ、ウクライナなど数カ国を除き、ほとんどの旧ソ連の影響圏だった国がNATO、EU加盟国になった。ロシアの勢力圏は、東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退したのだ。

2014年のロシアによるクリミア半島占拠は、「大国ロシア」復活を強烈に印象付けたようにみえるが、実際はボクシングならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれてダウン寸前のボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものにすぎなかったのだ。

それでは、ウクライナ戦争が始まる前、「大国ロシア」が復活していたかというと、それも違う。むしろ、ロシアにとって欧米の力関係は2014年よりも深刻な状況だった。クリミア半島併合後、ウクライナでは自由民主主義への支持が高まった。NATO・EUへの加盟のプロセスも、具体的に動いてはいなかったが、実現可能性が高まっていた。

ウクライナ戦争が開戦した時、プーチン大統領は「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」の3つの要求をしていた。ロシアがいかにNATOの東方拡大によって、追い込まれていたかがわかる。

そして、ウクライナ戦争開戦から5か月が経ち、ロシアは、ウクライナ東部を占領し大攻勢に出ているというが、欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が拡大し、ロシアがさらに追い込まれたことがわかる。ロシアは完敗しているのである。

ウクライナ国民にとっては大変申し訳がないことだが、欧米にとって、エネルギー供給危機のリスクを取ってまで戦争をこれ以上継続する積極的な理由はない。一方、停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続く。ただし、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう。プーチン政権を一挙に倒すことはできないが、それでもジワジワと追い詰めることはできる。欧米にとっては、それで十分である。

現在、欧米諸国の結束が乱れているようにみえるが、NATOの拡大がさらに進み、ユーラシア大陸においては、ロシアを軍事的に封じ込める完勝を収めたという背景があることを、見誤ってはいけない。

「新冷戦」という言葉があるが、少なくともユーラシア大陸において「新冷戦」という状況はない。繰り返すが、欧米とロシアの勢力争いは、すでに欧米の完勝に終わっており、追い込まれたロシアが窮鼠猫を噛む的に暴れたにすぎないからだ。

「新冷戦」というものがあるとすれば、その主戦場は「北東アジア」である。中国の軍事力・経済的な急拡大によって、中国の南シナ海の支配、台湾侵攻、尖閣諸島侵攻の懸念、米中や日中の経済安全保障をめぐる対立、「一帯一路構想」をめぐる対立、それらから世界中に広がる「民主主義vs.権威主義」の対立がある。

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