安倍元首相銃撃事件から1ヶ月。渋沢栄一の子孫が問う「日本人のアイデンティティとは」

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安倍元首相が銃弾に倒れてから一か月。私たちに大きな衝撃を与え、改めて多くのことを考えさせられる出来事となりました。日本の有り方、日本人として大切なアイデンティティとは一体何なのでしょうか。渋沢栄一の子孫で、世界の金融の舞台で活躍する渋澤健さんが、世界へと示すべき日本のアイデンティティについて語っています。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

日本として大切なアイデンティティとは

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

衝撃的な大事件から、およそ一か月が経ちました。考えられない大惨事に、私のように放心状態に陥った方々は少なくないでしょう。参議院選挙の終盤を迎えていたタイミングであったため、「民主主義の根幹を揺るがす」「民主主義への挑戦」という声が上がりましたが、もっと深いところで社会的基礎が腐食しているのではないかと危惧の念を抱きました。

社会が、世の中が、分断されて孤立感に陥っている人々が増えている。立場や意見が異なると相手のことを尊重する大らかさも失われている。経済が総額や平均でみて成長しても、時価総額が最高値を更新したとしても、このような状態では豊かさは実現できません。

ただ、あの1カ月ほど前に、分断されている世の中にあっても追悼の声が一斉に上がったことが印象強く残っています。選挙中にもかかわらず与野党問わず、安倍元総理への追悼の意を捧げ敬意を表する意思で一致しました。

世界の首脳も追悼で心が一つになりました。友好国からはもちろんのこと、ウクライナと共にロシア、台湾と共に中国からも。米国ではバイデンやトランプからも同じ声が上がりました。ほんの一瞬だけですが、世界が一つになった印象を得ました。

その後、色々な報道がありますが、本当に凄い功績を残した日本のリーダーであり、改めて敬意を表し心よりご冥福をお祈りいたします。

「美しい国」を目指していた安倍元総理は、やり残したことがたくさんあると悔やみながらこの世を去られたと察します。一方で、「美しい」の定義や意味は人や立場によって異なるので、思いはなかなか一致しません。

しかしながら、それぞれの立場における思考で、より「美しい国」をこれから実現させることに努める。これが、安倍元総理に対し我々が示すべき最善の追悼の意だと思います。いがみ合ったり、放心状態のままでいる場合ではありません。

安倍元総理の遺産に憲法改正があります。まさに立場や意見が異なり、相手の思考の尊重が疎かになりがちな懸案事項です。よく言われるように、「正義」に対抗するのは「悪」ではなく、「別の正義」です。

私自身は日本国の有り方を示す表現である憲法を、70年間を経た現在の新しい時代の世界情勢に平仄を合わせることは、我々が後世に残すべき責務だと思っています。一方で、可決できる数の原理の下での改正を求めている訳でもありません。

今回のレターの原稿の下敷きは沖縄の普天間基地の目と鼻の先のロケーションで書き始めました。日本国民の安全保障のために存在する、他国の壮大な基地の圧倒的な存在感を感じる地域であり、コザゲート通りで体験した騒然とした異国感に、様々な考察や感情が生じました。

国民の生活を守ることは民主主義国家における政府の第一の責務であり、存在意義です。そして、平和のバトンを後世にしっかりと渡すことは、政府の役割だけではなく、現代の一般市民が果たさなければならない重大責任です。

そして、世の中の闘争の可能性を見て見ぬふりをし、平和な状態であるとすることも妄想だと思います。今月は8月であるからこそ、私たち日本人は「平和」な「美しい国」とは何かについて、改めて考え、意識を高めるべきではないでしょうか。

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