もはやクーデター革命軍。米大統領の再選狙うトランプ陣営の支離滅裂

 

その一方で、バイデン政権にはインフレの責任がある、あるいは移民政策やアフガン撤退の失敗、ウクライナ戦争の迷走、中国との不安定な外交などを批判するなどといった「まともな政策論議」は完全にすっ飛ばされてしまいました。つまりトランプ派は、まるで議事堂での暴動を正当化するかのような主張を柱とした選挙戦を進めており、まるで「クーデター革命軍」のような集団になっています。

では、予備選での「トランプ派と穏健派の対決」はどうなっているのかというと、現時点ではトランプ派がかなり善戦しています。いくつか例を挙げてみますと、

ペンシルベニア上院候補、5月17日

トランプ派のオズ医師(TVタレント)が、穏健派のマコーマック候補に僅差で勝利。

アリゾナ州知事候補、8月2日

共和党の穏健派として、州の現職知事と政財界の支持を受けたロブソン候補と、トランプ派のレイク候補が激しく争い。ロブソン候補は、他でもないペンス前副大統領が正式に支持を表明し、選挙運動に全面的に参加したが敗北。勝利したレイク候補は「2020年の選挙ではトランプが当選していた」という陰謀論を主張。

ワイオミング全州下院予備選、8月16日

下院の委員会の副委員長として、徹底してトランプを追及していた、現職のリズ・チェイニー候補は、ヘイゲマンというトランプの刺客に惨敗。これで父のディック・チェイニーから維持してきた議席を喪失することが確定。

など、とにかくトランプ派の勢いは止まりません。ちなみに、8月8日に始まったFBIによるトランプへの強制捜査ですが、これはトランプ派を怒らせるだけで、バイデンの「逆噴射」だという解説もあるようですが、現時点ではそんな雰囲気にはなっていません。捜査が対立を激しくしているのは事実ですが、仮に何か「ネタ」が出れば、大きく政局が動くわけで、その意味で捜査そのものへの批判というのは、共和党の穏健派には強くはありません。

では、こうした動きは、アメリカ政局にどんな影響を与えていくのでしょうか?

1つは、トランプ派は大きな弱点を抱えているという問題です。具体的には、候補の「タマ」があまり良くありません。自分に忠誠を誓うということばかりを条件に選んでいるので、特に2018年、2020年の議会選挙と比較しても、こんな人を議員にして大丈夫(?)というような人物が大勢、共和党の統一候補になっているのです。

また政策論争で右派的なことを主張するよりも、一貫して「2020年の選挙は盗まれた」と言い続け、その結果「自分達が下院の過半数を支配したら、バイデンを弾劾する」などと叫んでいるのです。

こうなると、11月の本選では、特に全州が1つの選挙区となる上院では自殺行為になります。特に、両党の勢力が拮抗している州で、中間層・無党派層を取り込まないと勝てないケースでは、取りこぼしも発生しかねません。注目はペンシルベニア上院で、共和党のオズ候補がここで負けて、過半数奪取に失敗するというのが、現時点では真剣に取り沙汰されています。

2つ目は、2024年の大統領選への展開です。今回の予備選でトランプ派が優勢だからといって、トランプが予備選に勝つ可能性は高まったとは言えません。ペンスの逆襲、そしてヘイリーなど「隠れアンチトランプ」も虎視眈々と狙っています。デサントスなど「ミニトランプ」も、トランプが落ち目となれば動き出すのは間違いありません。

ということで、バイデンに高齢批判が出てきている民主党とは、また別の形で共和党の党内抗争は激しさを増しているのです。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年8月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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