生活のため働き続けるを得ない高齢者の急増を受け、使われ始めるようになった「老後レス社会」なる言葉。長引く不況の影響もあって豊な老後生活を望むべくもない我々庶民が、老後レス社会を悲惨なものにしないためにできることはあるのでしょうか。そんな誰しもが不安とともに抱く疑問にヒントを示してくださるのは、ファイナンシャルプランナーで『老後資金は貯めるな!』などの著書でも知られ、NEO企画代表として数々のベストセラーを手掛ける長尾義弘さん。長尾さんは今回、老後レス社会の厳しい現実と、綱渡りのような老後を避けるため現役時代にしておくべき備えを紹介しています。
プロフィール:長尾 義弘(ながお・よしひろ)
ファイナンシャルプランナー、AFP、日本年金学会会員。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『最新版 保険はこの5つから選びなさい』『老後資金は貯めるな!』『定年の教科書』(河出書房新社)、『60歳貯蓄ゼロでも間に合う老後資金のつくり方』(徳間書店)。共著に『金持ち定年、貧乏定年』(実務教育出版)。監修には年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。
「老後レス社会」がやって来た!
「老後レス」というのを聞いたことがありますか?
「レス」とは「~がない」という意味ですから、「老後がない」ということです。
この言葉は造語で、朝日新聞特別取材班が使ったところからきています。
老後がないというのは、何だかいい感じがします。一生現役で有り続けるということでもあります。
しかし、一生現役を望んでいるのならいいのですが、仕方がなく働くというのでは、話が変わってきます。
「老後レス社会」とは、お金がなくて働かざる得ない人が多くなるということです。
警察庁が発表している「警備業の概要(令和2年)」によると、警備員で働いている人の45%が60歳以上で、70歳以上が17%もいるのです。
『75歳、交通誘導員 まだまだ引退できません』(河出書房新社)の著者である柏耕一さん(75歳)は「交通誘導員の仕事は、まだまだ引退はできない」と言って、雨の日もコンビニで買った完全に防水できていないレインコートで、仕事を続けています。
今回は「老後レス」について話をしましょう。
ほぼ半数の人は70歳まで働いている
総務省統計局の「労働力調査(2022)」によると60歳から64歳の約7割は働いています。男女比でいうと男性の就職率は82.6%、女性は59.7%です。男性の8割は働いているということになります。
では、65歳以上をみるとどうでしょうか。
65歳から69歳の49.6%が働いています。70歳から74歳の人は32.5%、75歳以上でも10.4%の人が働いています。
60歳以降も働いている人がどんどん増えています、そして2021年に高齢者雇用安定法が改正されて、70歳までの雇用が努力義務化になりました。
70歳までは、ほぼ半数の人が働いているのが今の時代です。
長く働きたいのは、「経済的な理由」から?
では、いつまで働きたいと思っているのでしょうか?
内閣府の「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査(2019年)」の調査では、何歳まで働きたいのかの問には、61~65歳というのがもっとも多く30.7%です。次いで多いのが、66歳から70歳で、21.5%です。さらに続けて言うと71~75歳が9.2%、76~80歳4.3%です。
つぎに、その年齢まで働く理由についての質問についてです(先ほどの質問で60歳以降も働きたいと答えた人が対象)。
「仕事が好きだから」と答えた人は、16.9%です。その一方、「経済的にゆとりある生活を送りたいから」と答えた人は、28.9%。「働き続けないと生活費が足りない」と思うからと答えた人は、24.9%です。つまり、半数の人は経済的な理由で働くという選択をするということです。