「奈良県警がヘマをした」安倍氏銃撃事件の責任逃れに走る警察庁への違和感

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安倍元首相銃撃事件から約1カ月半が経過した8月25日、警察庁が公表した当日の警備についての検証結果。その内容は奈良県警の責任を大きく問うものでしたが、識者はどう見るのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、この報告書に感じた大きな不満点を列挙。その上で、各々について何が問題であるのかを詳しく解説しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年8月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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日本の警察、中央集権でいいのか?

安倍元総理が殺害された事件では、事件当時の警備体制について、警察当局は世論の強い批判を浴びました。これを受けて、警察庁は8月25日に「令和4年7月8日に奈良市内において実施された安倍晋三元内閣総理大臣に係る警護についての検証及び警護の見直しに関する報告書」を公表しています。同時に中村格警察庁長官は勇退を発表していますが、一方で、所轄の奈良県警の本部長は懲戒処分を受けて辞職というより厳しい人事となっています。

まず、今回の事案ですが、明らかに体制と制度に問題があったのですから、勇退する旧体制が調査報告を行い、改善案まで提示するというのは、一見すると責任ある行動のように思われますですが、ここまで深刻な問題であれば、調査と改善は新体制に委ねるのが適切ではないでしょうか。まず、その点が非常に気になります。

このような責任の取り方であれば、結局のところ改革は不連続とならず、組織防衛が前面に出てしまうのではないか、その結果として、今後も必要な措置が十分に講じられないという懸念が払拭できないのです。

まず、報告書の内容ですが3点大きな不満があります。

1点目は、事件の際の警備計画と実際に起きてしまった事件とを対比して問題点を明確化するという記述が足りないということです。警備計画については、延々と記述がされています。起きてしまった事件に関して事後的な批判も加えられています。ですが、その上で、今後へ向けて、あるべき警備計画はどのようなレベルのものなのかは、明らかとなっていません。

勿論、内容の性質から考えて、ノウハウの全てを公開することによって敵に「手の内を明かす」ことになる点があるのは分かります。報告書にも、そのような説明が書かれています。ですが、そうしたセンシティブな部分を除外しても、原理原則の部分から今回の警備計画への批判がされる必要はあると思います。

2点目は、その一方で現場で警備に当たっていた警護要員に関して、匿名ではあるものの一人一人の警備経験などの履歴が詳細に記されているという点です。今後の教育訓練に関してはもっと組織的に行うように改善する、その前提として現状を知ってもらうという意図は理解できます。しかしながら、それにしても個人が容易に特定できる中で、ここまで詳細に履歴を書く必要があるのかというと疑問が残ります。これでは、現場でそれこそ危険を冒して警備に当たっている警察官のモラル向上には繋がらないのではないでしょうか。

もっと言えば、報告書の中で警視庁の要員は「警視庁警護員X」などと記述されている一方で、奈良県警本部の要員は「身辺警護員ABC」という書き方になっています。例えば「身辺警護員B=本部警護課に属する警部」という具合です。これでは、警視庁は偉くて県警本部は偉くないという、まるで徳川時代のような感覚があります。

あくまで内部の呼称として、そういう言い方が当たり前であり、それに「慣れている」ということはあるのでしょう。ですが、PDFを公開して、内容を社会に対して問う際に、ここまで「本庁は偉い、所轄の県警本部はその下」という幕藩体制のようなことをやっているのは、違和感があります。

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