過激な脱原発と脱石炭のツケ。ガス不足で国民凍死危機に瀕する国

 

しかし、産業界は今でさえ、すでに多大な打撃を受けている。中小企業の1割が極度な経営不振に陥っているというし、製鉄、製紙をはじめ、アルミ、肥料、化学製品などもガスの高騰で青息吐息。化学製品の減産はそれを必要とする多くの産業をも麻痺させている。8月31日にはドイツ産業連盟の会長が、「今年、ドイツ企業はガスの消費を21%も削減したが、これは代替燃料を得たからでも、合理化のせいでもなく、生産縮小によるものだ」と憤った。それにしても、なぜ、こんなことが起こったのか?ハーベック氏が言うように、全てプーチンのせいなのだろうか。

これまでのドイツは脱原発を天命の如く掲げ、原発を減らし、しかも石炭・褐炭火力も無くす方向に向かって邁進していた。原発と石炭火力はベースロード電源(24時間365日、基礎となる電力を安定的に安価に供給する電源)を担っている。ドイツでは再エネによる発電も盛んだが、太陽と風はいつもあるわけではないので、ベースロード電源にはなれない。

産業国が再エネ100%で成り立つというのは、かねてからの緑の党の主張ではあるが、採算の取れる画期的な蓄電技術が存在しないうちは不可能だ。それにもかかわらず、脱原発と脱石炭の同時進行という無理筋の計画が進んだのは、安くて豊富なロシアガスがあったからだった。「ガスは再エネ100%が達成できるまでのつなぎ」というもっともらしい理屈は、長らく緑の党の主張を支える柱となっていた。

ただ、この政策により、当然のことながら、ガス需要は年々高まり、逼迫・高騰はすでに昨年の初めから始まっていた。それに加えて、昨年の夏頃からは風が吹かず、頼みの綱の風力電気が脱落。夏の終わりからはあちこちでガスの取り合いが始まった。そして、この状況を見極めたプーチン大統領が、ウクライナに侵攻した。それに対して西側諸国が制裁として、ロシアエネルギーのボイコットに踏み切ったため、ガスの逼迫・高騰は決定的となった。

ただ、理解に苦しむのは、昨年末、ロシア軍がウクライナ国境に集結していた危うい状況下で、ハーベック氏が予定通り原発を3基停めたことだ。現在は最後の3基が稼働しているが、その停止の期日が今年の暮れと迫っており、これが緑の党の踏み絵となりつつある。

ドイツ国民はこれまで脱原発で固く団結していたが、直近のアンケートでは、すでに8割が、3基の原発の稼働をしばらく延長すべきだとしている。ところが、国民に冷たい水で手を洗えとまで言いつつ、ハーベック氏が捻り出した結論は、3基のうちの1基は予定通り永久に停止し、後の2基は一旦止めるが、4月半ばまで予備として待機させるというものだった。これにはさすがのドイツ国民も反発した。

EnBW(ドイツで3番目に大きい電力会社)の元CEOは、オピニオン誌Ciceroのインタビューでハーベック氏を、「この状況下において、いかにして最後の原発を止めるかということなど、ただ検討するだけにしろ、中庸な判断力のある中立的な傍観者の理解を超えることだ」とボロクソに批判。また、他の電力関係者らも、「原発は電気が足りなくなったからといって、点けたり消したりするには向かない電源である」と呆れ返った。

ただ、ここからはハーベック氏だけでなく、緑の党が皆で暴走する。このガス、および電力不足を乗り切るためには、さらに急激に再エネを増やさなければならないと言い始めたのだ。ただ、ガスがない限り、いくら再エネを増やしてもベースロード電源は欠如したままで、電力の安定供給は望めないというのが現実だ。

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