焦る日本と冷静な金正恩。北朝鮮のミサイル発射が「今しかない」訳

2022.10.05
smz20221005
 

今年に入ってすでに41発、9月25日からに限ってみれば10日あまりの間に8発ものミサイル発射を行った北朝鮮。4日にはJアラートの対象地域が二転三転するなど日本国内で混乱も見られました。なぜ金正恩総書記は今、ここまでミサイルを連射するのでしょうか。その背景を考察するのは、政治ジャーナリストで報道キャスターとしても活躍する清水克彦さん。清水さんは今回、北朝鮮がミサイルをハイペースで撃ち続ける裏側を分析するとともに、金正恩総書記がミサイル発射を「今しかない」と判断しているであろう理由を解説しています。

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。

私が金正恩でも「今しかない」と思う北朝鮮ミサイル発射のタイミング

10月4日午前、北朝鮮が発射した中距離弾道ミサイルは、いつもの日本海ではなく、青森方面を飛び越え、日本のEEZ(排他的経済水域)外へ落下した。

防衛省によれば、推定飛距離は4,600キロ。日本列島を飛び越えたのは5年ぶりのことだ。

その距離から、私は、今回、発射された「火星12」型の中距離弾道ミサイルは、アメリカのグアム基地を射程に入れたものではないかとみている。

それと同時に、私が金正恩朝鮮労働党総書記(以下、金正恩と表記)でも、ミサイル発射や核実験に踏み切るなら、「今しかない」と考えるだろうな、と感じたしだいである。

金正恩は再び「ロケットマン」に

北朝鮮は今年に入り、かつてないハイペースでミサイル発射実験を実施している。

今年1月から3月までだけをみても15発の弾道ミサイルを発射した北朝鮮。これだけでも、金正恩総書記の父親、金正日氏のときに発射した弾道ミサイルが17年間で16発だったのを思えば、かなりの数だ。

金正恩体制になってからの通算では100発をゆうに超えている。2018年6月、シンガポールでの米朝首脳会談以降、しばらく鳴りを潜めていた金正恩は、かつて、アメリカのトランプ大統領(当時)に揶揄された「ロケットマン」に逆戻りしてしまったことになる。

問題なのは数だけではない。その質だ。

北朝鮮は、1月5日、11日にミサイル試射を行い、それらが「極超音速ミサイル」であると発表した。北朝鮮は、1月14日、17日にもそれぞれ2発ずつミサイルを発射し、日本をはじめとする国際社会に軍事的脅威を与えている。

3月には「火星17」と主張する新型のICBM=大陸間弾道ミサイルの発射にも成功したと主張した。

今年に入ってICBM級ミサイル発射の1回目は2月27日、首都ピョンヤン郊外のスナン付近から。2回目はその6日後の3月5日。同じスナン付近から弾道ミサイル1発を発射している。

3回目、3月16日の発射は空中爆発し失敗したとみられているが、3月24日には4回目の発射を成功させている。しかも移動式発射台で、だ。

北朝鮮は短期間のうちに、迎撃しにくい「極超音速ミサイル」とワシントンDCが射程圏内に入る長距離弾道ミサイルの発射に成功したわけだ。

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