悪だった在庫が儲けに変わる。インフレ時代に取るべき世界のビジネス戦略

Cubes, dice or blocks with inflation on wooden background
 

3.見本市と問屋機能の見直し

デフレからインフレへの転換と共に、需給バランスも転換した。供給過剰から供給不足に転換したのだ。

供給過多の時代はメーカーより小売店の立場が強かった。商品はいくらでもある。顧客を持っていることが強みだ。しかし、供給不足になれば、メーカーの立場が強くなる。商品を欲しい人はいくらでもいる。商品を確保していることこそ強みになる。

これまでは小売店の都合に合わせてメーカーが商品を生産していたが、今後はメーカーの都合が優先されるだろう。メーカーが設定した時期に発注しないと、商品が調達できなくなる。つまり、欧米の見本市ビジネスのような形態が主流になるのではないか。

日本では見本市ビジネスが成立しないと言われてきたが、それは御用聞きのように、顧客の元に出向いて受注してきたからだ。しかし、御用聞きスタイルが可能なのは、商品が豊富で低コストで商品調達ができる環境が整備されていることが条件だ。

顧客からの注文を待つのではなく、自社で調達した商品を期間で売り切るという発想が必要になる。顧客からの注文を待っていたのでは、原材料の調達ができなくなる。短サイクル生産、多品種少量生産を前提にすることは益々困難になっていくだろう。

現在も、給湯器や水回りの部材が中国から輸入できずに、建築が中断される事例が増えている。今後は、かつての問屋のように需要を予測して部品や商品を在庫する機能が重要になるだろう。

4.地域限定のスローライフスタイル訴求を

世界が分断され、原材料やエネルギーのコストが上昇するにつれ、スピード重視の経営は困難になる。スピードを上げることは、余分なエネルギーを使うことになる。環境問題を重視するなら、スローな経営、スローな生産、スローな生活スタイルが基本になる。

ファッションも短サイクルでトレンドを追いかけるのではなく、顧客の個性に対応したブランディングと、顧客のワードローブを重視した持続可能な商品企画が求められる。

これまでは全ての商品を短期間で売り切ることが基本だったが、今後はロングセラー商品を基本にすべきだ。西欧の食器はデザインを変えないので、カップが壊れたら同じものが購入できる。アパレルでも同様のスタイルが求められるだろう。

顧客の個性も情報で左右される個性ではなく、顧客の環境、生活圏の自然や文化、価値観や美意識、生活スタイルも基づいたものになる。つまり、世界共通のグローバルトレンドではなく、多様な文化、多様な生活スタイルに対応することだ。

例えば、日本国内を見ても、東京、名古屋、大阪、神戸では顧客の好みが違う。こうした違いを重視した商品企画がトレンドより優先されるということだ。そうなると、全国一律の商品を全国展開するのではなく、特定の地域に集中的に出店するドミナント展開が重要になる。

地域を限定することで、地域アイデンティティの訴求、地元の行政や大学、異業種企業との連携が可能になる。また、ファッションに地域性が加われば、観光との相乗効果も期待できる。

ファッションとエンターテインメント、ファッションと食とのコラボといった、これまでのアパレル完結のビジネスではなく、本来のライフスタイル訴求によるビジネスの広がりを目指すべきである。

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