2.大量生産大量販売は持続できない
アパレル製品の原材料費が高騰している。
最近の1~2年で綿糸は2倍以上に値上がりしている。元々、綿花栽培は減少しているが、それに加えて、中国のウイグル自治区の人権侵害問題による新疆綿のボイコット、パキスタンの水害による綿花畑の被害等が拍車をかけている。世界的不況のため、価格上昇は落ち着いているが、供給全体が減少しているので、長期的な値上がりが続くと予想されている。
ポリエステル等の合繊の原料は石油であり、石油価格高騰に伴って、ポリエステル糸の価格も上昇している。世界に流通しているアパレル製品の9割以上が綿とポリエステルで占められている。代替えは効かないのだ。
アパレルの資源は有限であり、しかも持続可能性や環境への配慮が求められる現代では、これまでの大量生産大量販売、大量廃棄というビジネスモデルは成立しない。限りある資源をいかに大切に使うか。いかに無駄を排除するかが課題となっている。
環境や資源を考えれば、低価格大量販売ではなく、高価格少量販売を目指すべきだろう。
中国生産ができなくなり、国内生産に切り替える動きも見られるが、それには価格設定の見直しが不可欠である。最終的には中国生産が始まる以前の80年代から90年代前半の価格、つまり、ユニクロの3~4倍の価格が目安になるだろう。
しかし、多くのアパレル企業は製品価格を上げると売れなくなると考えている。
ASEAN生産に転換すれば、価格は下がるが、生産ロットが問題になる。これまでの中国生産のように小ロット生産はできない。千枚単位、万枚単位の発注が要求されるからだ。グローバルなスケールのアパレルであれば、ASEAN生産も可能だが、国内市場に依存している一般のアパレル企業は難しいだろう。
3.ファストファッションの衰退
ファストファッションはグローバルトレンドが企画の基本だった。世界市場で同じ商品を販売するには、世界共通のトレンドが必要であり、その情報ソースは欧州のコレクションや見本市だった。しかし、同じトレンド情報に基づく商品はどうしても同質化し、最終的には価格競争に陥ってしまう。
そもそもファッションは国単位で固有の文化、宗教、価値観、美意識を反映するものであり、世界共通商品という設定自体に無理がある。
しかし、グローバル主義者はその常識を否定し、個別のアイデンティティを否定する。それは少数民族の文化を否定するのと同じ思想である。幸いにも、日本は固有の文化を持ち、世界的にも評価されているため、現在のところ日本文化そのものが否定されることはない。それでもファッションは世界共通のものであるという思想、西欧崇拝主義はファッション業界内こそ根強い。
現状は、ファストファッションが衰退し、トレンド商品よりデザイナーズブランドが売れている。同質化したトレンドより、個性的な商品、個別に対応した商品が選ばれている。
今後は、世界共通トレンドではなく、個別対応のファッションが主流になるだろう。
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