終わらない北朝鮮の暴走。金正恩がミサイル乱射を続ける「2つの理由」

2022.10.20
 

北朝鮮にとっては都合のいい米中露の対立激化

北朝鮮が異例のペースで発射する背景はもう1つある。これは発射“する”背景というより、発射“できる”国際環境といった方が良いかもしれないが、米中露の大国間対立の構図が影響している。昨今、暴走するプーチン大統領に中国も擁護できないとする姿勢を示しているが、近年、米中の力関係は徐々に接近しており、むしろ北朝鮮周辺の安全保障環境では軍事的に中国有利の環境に変化してきている。

中国は一帯一路などによって対外的影響力を拡大し続けており、ラオスやカンボジアなど中国の影響力に覆われる国々も少なくない。また、ロシアによるウクライナ侵攻では、米国は以前からウクライナに直接軍事介入しない姿勢を鮮明にしてきたが、それがプーチン大統領の侵攻決断を助長したとの見解も聞かれる。ウクライナ侵攻以降も、実はロシアに対して制裁を実施しているのは欧米や日本など40カ国あまりに過ぎず、世界の150あまりの国々は欧米陣営に加わっていない。しかも、ロシアは中国やインド、イランなどと非欧米陣営の動きを加速化させ、欧米は世界の中心ではなく1つの陣営という構図が色濃くなってきている。世界の分断、多極化がますます色濃くなってきている。

北朝鮮はこういった2つの変化を着実に捉え、戦略的に動いている。日米韓が一体となって向かってくることは長年のことで、北朝鮮はそれに対してミサイル発射や核実験などで対抗してきた。そして、2つ目の世界の分断、多極化という環境下では、たとえ国連安保理違反の行動を取ったとしても新たな制裁を免れると北朝鮮は先読みしている。案の定、今回のミサイル発射を非難する安保理決議の採択においても、中国とロシアはそれに反対した。北朝鮮は「ミサイルを発射しても中国とロシアが同じ反米ということで反対に回るから大丈夫だ」と確信しているのである。

この2つの国際環境が続く限り、北朝鮮の暴走は必ず続く。米中露の対立が激しくなればなるほど、北朝鮮にとっては都合のいい環境となり、たとえ制裁を実施したとしてもその分抜け道が大きくなるのだ。

image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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