セクハラ上司の常套句「嫌がっていない」は裁判で通用するのか?

Close-up view of hands of unrecognizable woman giving red gift box tied to bow handed to man. Giving gifts during the Christmas, Happy New Year and Happy Birthday at office.
 

女性隊員が勝ちました。

その理由は以下の通りです。

・上官としての地位を利用し、母子家庭で雇用や収入の確保に敏感になっている女性隊員の弱みにつけこんで、性的関係を強要したことは極めて悪質である
・ボールペンのプレゼントは上官の機嫌をとるために贈り物をしただけで、親密さや相互の好意的感情の存在を推認させるものではない
・いまだにPTSD症状に悩まされ、家事、育児など生活に多大な支障をきたしていることを考慮すると慰謝料は800万円が相当である

今回の重要なポイントは「セクハラ被害者の心理や行動に対する理解」です。

セクハラ加害者がよくいうセリフがあります。

「(性行為のときに)相手が嫌がっていなかった」

「嫌がっていなかった」の前にそもそも同意をとったのかとつっこみたくなるところではありますが「嫌がっていなかった」ように「見える」ことは実はよくあることなのです。

今回のお話とは別件ではありますが下記のような裁判所の判断事例もあります。

・強姦の脅迫を受け、又は強姦される時点で、逃げたり、声をあげることによって強姦を防ごうとする直接的な行動をする者は被害者のうちの一部である
・職場での上下関係や、同僚との友好関係を保つために抑圧が働き、これが被害者が必ずしも身体的抵抗という手段をとらない要因として認められる
・被害者が、加害者からの飲酒の誘いに応じたこと、席を立つことなく同一ルートで帰宅したこと、別れ際に握手を求めたこと、事後に感謝といたわりのメールを送信したことなどは、これを拒否すると自己に不利益が生じないとも限らないと考えたためである(よってセクハラである)

これは実務的にも非常に重要ですね。

2022年4月からすべての会社にハラスメント相談窓口の設置が義務付けられました(大企業は2020年よりすでに義務化されています)。

みなさんの中には、直接、セクハラの被害者から話を聞く立場の人もいるのではないでしょうか。そのみなさんが「嫌がっていなかった」で安易にセクハラの有無を判断してしまったら、大問題になってしまう可能性があります(実際にセクハラ相談窓口の担当者が訴えられた裁判例もあります)。

もちろんセクハラが起こらない環境を作ることが重要なのは言うまでもありませんが、万が一のときはしっかりと対応していきたいですね。

image by: Shutterstock.com

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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