“トランプ隠し”で大成功。米国「中間選挙」で共和党がとった巧妙な戦術

 

2)都市部の治安問題も大きいと思います。特にシビアなのはニューヨークで、コロナ禍で悪化した治安状況が全く改善を見ていません。勿論、民主党の州政も、市政も頑張ってはいるのですが、とにかく結果が出ていません。NYの場合、まずアジア系へのヘイト犯罪があり、これに2020年は乱射犯罪、2021年からは万引き犯、そして地下鉄内の治安悪化、そして2022年の現在は銀行強盗が多発しています。

銀行強盗といっても、昔のように巨額の被害額になることはなく、一件あたり1万ドル(150万円)程度のキャッシュを奪うといった犯行ですが、とにかく多発しているのは事実です。原因としては、コロナによる困窮者の増加、そうした人々の犯罪への抵抗感喪失、拘置所が溢れたことによる被疑者の釈放などがあります。

このうち、被疑者の釈放に関しては、拘置所が溢れ、管理の警察にマンパワーが少ないことを背景に、「金持ちの被疑者だけがシャバに出られるのは不平等」というタテマエから、重大犯罪以外は保釈金を積まないでも保釈するという「保釈金改革」が進んでいます。共和党はこの「改革」が治安悪化の元凶だと叩いており、これに対して有効な反論ができていないことから、民主党の票がどんどん逃げていっています。

3)トランプ隠しの成功ということも大きいようです。例えば、この週末、つまり投票日直前の週末には、トランプは共和党の選挙運動の一環として、3州で遊説を行いました。その3州とは、ペンシルベニア、オハイオ、フロリダで、どれも重要な州であることは間違いありません。ですが、過去の選挙では、それこそ1日に3箇所などを精力的に回っていたトランプですが、今回は「1日、1州、1箇所」だけの遊説となっていました。

例えば、ペンシルベニアの場合は、州のど真ん中の山間部の空港で集会を行っています。クルマで各都市から来てくれということなのでしょうが、とにかく、具体的な下院議員の運動とは全く連動させない、州規模のキャンペーン限定ということのようでした。共和党としては、この最終段階では中間の無党派層にターゲットを絞っており、その場合は「トランプはマイナス要因」なので「隠した」ということだと思われます。そして、この「トランプ隠し」は上手く行っているようです。

4)バイデン、ハリスの不人気ということも大きいです。その結果として、選挙の終盤では、バラク・オバマ元大統領がかなり精力的に遊説に飛び回っていました。そうすると、オバマのファンなど、コアの民主党支持層は活気づくわけですが、どういうわけか現職が来ないということですと、やはり選挙運動としては盛り上がりに欠けるわけです。

5)ペロシ議長宅襲撃事件への対応も大きかったと思います。10月28日(金)の未明、カリフォルニア州のサンフランシスコ市内にある、アメリカ連邦下院のナンシー・ペロシ議長(民主)の自宅が襲撃されました。襲撃犯は、デビット・デパーペという42歳の男性で、下院議長を狙っていたようですが、不在のために夫君のポール・ペロシ氏に対して暴行を加えて重傷を負わせました。

何ともひどい事件ですし、これを受けてバイデン大統領が「民主主義への挑戦」だと怒ったのも当然だと思います。ですが、選挙戦の終盤に来て、こうした「分断や暴力」の問題を、優先順位のトップに据えるということは、逆を言えば、多くの人が苦しんでいるインフレや都市の治安問題には、バイデンと民主党は「関心が薄い」と言っているのと同じ、そんな印象を与えてしまったのでした。

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