“トランプ隠し”で大成功。米国「中間選挙」で共和党がとった巧妙な戦術

 

この他にも、妊娠中絶問題、不法移民の問題など、難問が山積しているのは間違いないのですが、多くの民意としてあるのは、「そんなイデオロギー的な課題ではなく、とにかくインフレと治安だ」という認識です。これに対して、バイデン大統領は、民意の中にある強い痛みを、そして要求を「明らかに感じ取っていない」ということが、明らかになってしまいました。

今から考えると、この辺が潮目であって、中間無党派層に次のような感触が、「す~っと」広がっていったように思います。それは、

「トランプは嫌いだし、この間の共和党も好きではない。でも、ここまで民主党がインフレを気にしないようなら、このタイミングで『お灸を据える』のも悪くないし、そもそもイヤなトランプの姿が薄いので、共和党に入れることへの抵抗感も急速に消えている」

そんな感触です。郊外に住んで、子どもをサッカー場に送り迎えする層、都市部に暮らしていて家賃の高騰から友人と「ルームシェア」している人々、あるいはインフレの直撃を受けている高齢の年金生活者など、従来であれば、「今の共和党に入れない」という信念を持っていた部分に対して、共和党が急速に浸透しているのです。

本稿から30時間位後に、仮に「レッド・ウェーブ」という共和党の波が、上下両院に加えて、NY知事なども含め、一気に勝利してゆくとしたら、その要因はこのようなことだと思います。

仮に、今回の中間選挙における共和党は優勢だとします。そうすると、トランプの復権は確かであり、この勢いで2024年の大統領選へ向けての候補となる可能性は濃厚と思えるのは自然です。実際に、日本ではそのような見込み報道が多くなっているようです。

けれども、ここ1週間から10日の動き、つまり今回の中間選挙の直前の政治情勢を見ていると、必ずしもそのように断言は出来ないように思われます。そうではなくて、全く別のモメンタムが動き始めているのを感じるのです。

まず今回の中間選挙の結果ですが、共和党がかなりの集票を実現できたと仮定しましょう。その背景は、トランプ人気の拡大ではないと思います。まして、2020年の選挙結果への異議申し立てでもないと考えられます。原因は1つ、もう一度確認しますが、インフレへの怒りが中心で、せいぜいこれにNYなど大都市での治安悪化への批判です。

ということは、仮に共和党が勝ったとしても、必ずしもトランプの勝利とは言えません。

その一方で、共和党内ではトランプに続く「No.2候補」が明確になりつつあります。フロリダ州のロン・デサントス知事がそうです。全国の共和党支持者に対して調査をかけると、2024年の大統領候補として、トランプがまだ50%程度の数字を持っていますが、2位はデサントスで20%ぐらいあります。

もっとも、トランプによれば、自分は圧倒的で、せいぜいデサントスは10%、その次がペンスで7%なんだそうです。ちなみに、ペンスに関して、トランプは自分の副大統領だったにもかかわらず、2021年1月のバイデン就任の手続きを進めたことから「決別」しているだけでなく、7月までの予備選では泥仕合を戦ってもいます。ですから、この週末の演説では「ペンスは7%でも高いぐらいだ」と罵倒しているのです。

ちなみに、トランプはデサントスのことを「デサンティモニウス」という新しいあだ名をつけて罵倒しています。意味としては、「お堅いカトリック」ということらしいのですが、これまではお互いに「付かず離れず」の関係であった中に、今はシビアなライバル関係を感じているようです。

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