既に始まっている台湾有事への“長いカウントダウン”
そして、中国による“これまで以上の過激な軍事行動の日常化”は、誰もが恐れる偶発的衝突の可能性を高めることになる。冒頭で邱国正国防部長が第一攻撃の定義を“中国からの攻撃”から“中国軍機の領空侵犯”に変更する意思も明らかにしたように、今日双方の間で過激な言動・行動の応酬、連鎖が相次いでいる。しかもそれに歯止めが掛からない状態で、過激な言動・行動がこのまま続けば、それによって軍事的な偶発的衝突が発生するリスクが高まることは想像に難くない。
台湾有事でより大きな影響を受けるのは台湾自身だ。台湾は民主主義“国家”であり、有事という国家緊急事態になったとしても、政府は台湾国民や台湾に滞在する外国人の命と安全を守ることを重視するであろう。一方、中国はゼロコロナ政策にも見られるように、国家緊急事態になった場合は政府の権限はいっそう強くなり、国民はそれに従うことを余儀なくされる。中国は全体主義国家であり、国家緊急事態の場合には民主主義国家ほど国民の命や安全は重視されない。こういった性格を持つ中国であれば、台湾有事の際にはたしてどこまで人道面をケアしてくるか全く不透明だ。周知のとおり、中国は台湾を香港やウイグルと同じように絶対に渡すことのできない核心的利益に位置づけており、台湾独立に対する動きには武力で対応してくるだろう。
今年秋には習国家主席の3期目が確定するが、習国家主席の最大の夢の1つが台湾統一だ。習氏がこれを諦めることは絶対にない。中国はロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにしており、台湾侵攻を躊躇しているとの分析もある。確かに、中国も最近ロシアと距離を置く姿勢を示しており、ウクライナ侵攻を台湾侵攻に捉え、そのメリットデメリットを模索していることだろう。それもそれで正しい見解だ。しかし、ウクライナと台湾で決定的に異なるのは、プーチン大統領はウクライナとロシアは民族が変わらないとしながらも国家として別との認識であるが、習氏にとって台湾は国内であり、そもそも国際法上でいう国家と国家の“戦争”という概念がないことだ。我々はこれを熟知する必要がある。台湾有事を巡っては、既に“長いカウントダウン”が始まっているのだ。
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