加速するプーチン離れ。集団安全保障条約機構で高まるロシアへの不満

 

タジキスタンとキルギスの不満

ロシアの態度に不満を持っているのは、アルメニアだけではありません。中央アジアのキルギスとタジキスタンも大きな不満をもっています。実をいうと、CSTOの加盟国であるキルギスとタジキスタンは9月、一時戦争状態になっているのです。毎日新聞9月22日。

複雑に引かれた国境線を巡り対立してきた中央アジアのキルギスとタジキスタンの治安当局は14日から16日にかけて、国境付近で断続的に衝突した。キルギスは59人が死亡し、180人以上が負傷したと発表し、タジキスタンも38人の犠牲者が出たことを明かしている。

CSTOの支配者であるロシアは、加盟国同士が戦争状態になったのを放置しました。タジキスタンのラフモン大統領は10月、面と向かってプーチンを批判しました。産経新聞10月15日。

中央アジアの旧ソ連構成国、タジキスタンのラフモン大統領は14日、カザフスタンの首都アスタナで開かれたロシアと中央アジア5カ国の首脳会議で、プーチン露大統領に対し、「旧ソ連時代のように中央アジア諸国を扱わないでほしい」と述べ、タジクは属国扱いではない対等な国家関係を望んでいると表明した。会議の公開部分の発言をタジクメディアが伝えた。

プーチンは、タジキスタンを「属国の小国」と見ています。「属国」の長が、面と向かってプーチンを批判した。まさに「異例のできごと」です。

崩壊にむかうCSTO

ここまでをまとめると、

  • CSTOは、ロシアを中心とする集団安全保障条約機構である
  • CSTO加盟国であるアルメニアは、隣国アゼルバイジャンと戦争状態になり、CSTOに助けを求めるが、ロシアは、アルメニアを助けていない
  • CSTO加盟国のキルギスとタジキスタンは9月、一時戦争状態になったが、CSTOのトップロシアは、何もしなかった

というわけで、どこからどうみても、ロシアを中心とするCSTOは機能不全に陥っています。近い将来、脱退国が相次いで、事実上の解体状態になっても、誰も驚かないでしょう。

プーチンは、ウクライナへの影響力を確保するために、侵攻しました。結果、ロシア自体が弱体化し、カザフスタン、アルメニア、キルギス、タジキスタンなどが、ロシアから離れてきている。旧ソ連圏への影響力強化を目指した侵攻の結果、逆に影響力を大幅に減らす結果になっているのです。

私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から、「ウクライナに侵攻すれば、ロシアの戦略的敗北は不可避」といいつづけてきました。侵攻の結果、旧ソ連圏での影響力が大幅に減ったというのも、「戦略的敗北」の一つです。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年11月26日号より一部抜粋)

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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