私がパリにいたのはまさにこの時期だった。これまでと同様の移民政策を推進する左派と、女性を優遇し少子化対策を推進する右派の間で大きな国民的議論が巻き起こっていた。私の入院しているパリの病院には、ちょうど女優の中山美穂さんや元アナウンサーの中村江里子さんが出産のために訪れていたこともあり、入院の退屈しのぎもあり、病院スタッフらと日仏少子化対策の違いについて議論もしていた。
妊娠すると、仕事の給与保障に上乗せした妊婦手当が発生する。出産時には、例外なく全額無料の無痛分娩が行われ、しかも出産時一時金が出て、子供の人数が増えれば増えるほど、支給額も増すという仕組みであることを知った。
当時、フランスでの育児手当は日本円で毎月10万円程度で、仮に3人のこどもを育てる場合は月額25万円程度16歳まで受給されると聞いた。重要なのは、その給付がすべて女性になされることだ。日本のように「戸」ではない。よって、婚外やDVなどの問題に苦しむ「母」は、育児に専念することができる。なにより、こどもの父親が誰であるかと問われることもない。
実際に後にサルコジと大統領選を戦うロワイヤル女史は、任期中に出産したが、メディアも含めて、その父親が誰であるかを問う声はなかった。日本との違いに驚いたものだ。こどもは社会共通の宝という理念がいきわたっているのだろう。直接的な書き方を許してもらえれば、女性はこどもを産んで育てれば育てるほど、働かずに済み、育児中心の人生を送れるのであった(LGBTの観念はこのころのサルコジには薄かったと思われる)。
この政策によって、出生率は上昇をはじめ、サルコジ大統領の一期目の任期中には合計特殊出生率が2.03(2010年)まで回復した。(後編につづく)
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