開催するのは日本だけ。ガラパゴス国家の象徴「駅伝」の大きな弊害

 

日本の陸上選手がマラソンで勝てない理由

駅伝がもたらす最大の弊害として日本の陸上選手がマラソンで勝てないこと。長距離の陸上選手が学生時代から“駅伝漬け”の練習の日々を送る結果、マラソンの準備をする余裕がない。

1年が駅伝を中心に動き、とくに有力な選手ほど箱根駅伝が終わると“燃え尽き症候群”の状態に陥ってしまう。

さらに箱根の1区間のだいたいの距離であり20kmの倍の距離をマラソンでは走らなければならないという、心理的な壁もある(*7)。

そのため、だれもわざわざマラソンに挑戦しようと思わないし、大学の指導者も選手に挑戦させようとは思わない。とくに箱根駅伝がメジャー化した1990年代以降、日本の男子マラソンは急速に弱体していく。

矢野龍彦氏は、

「みなさんマラソンは駅伝の延長線上にあると想像されているかもしれませんが、まったく別の競技だと思ってください。

市民ランナーのみなさんでも1万mとマラソンの違いは実感されると思いますが、20kmとマラソンも大きく違います。

いまの学生にマラソンの準備をしろというのは無理だし、スケジュールがそうなってない。マラソンは別世界の競技なんです」(*8)

と指摘する。

一方、女子マラソンではかつて、有森裕子、高橋尚子、野口みずきと結果を残してきた。しかしではあるが、その女子でも近年、駅伝が注目され、結果としてマラソン方面では“散々”だ。

箱根駅伝の出場チームの選手20%が疲労骨折を経験 スタッフはオムツ着用

駅伝は、走る選手も多大なる負荷を与える。疲労骨折の多さがそれだ。2016年開催の箱根駅伝出場チームを対象にした調査によると、年間で20%の選手が疲労骨折を発症していた(*9)。

疲労骨折は、走る動作の繰り返しで荷重が脚の骨に加わり、結果、少しずつ骨折にいたるというもの(*10)。

別の研究では駅伝における疲労骨折の原因について、

  • 走行距離の過多
  • 勝負へのこだわりが強すぎた
  • 早期の診断が困難
  • スポーツ指導者のスポーツ障害に対する理解不足

を挙げている(*11)。

ちなみに駅伝は、テレビ中継するスタッフも過酷な労働環境に置かれている。

「トイレにはいけないのでオムツをしての乗車。カメラマンも機材担当もみなそうだ。」(*12)

こんな駅伝、さっさと辞めるべきでは?

引用・参考文献

(*1)生島淳「なぜ日本人は駅伝に熱中するのか──その起源と箱根駅伝人気が突出する理由、国民好みの競技性を読み解く」nippon.com 2021年12月22日

(*2)生島淳 2021年12月22日

(*3)生島淳 2021年12月22日

(*4)生島淳「駅伝がマラソンをダメにした」光文社新書 2005年 p13より抜粋

(*5)窪田順生「感動と熱狂の『箱駅駅伝』が日本人だけにしかウケない理由」DIAMOND online 2019年1月10日

(*6)窪田順生 2019年1月10日

(*7)生島淳 2005年

(*8)生島淳 2005年

(*9)初雁晶子「下肢疲労骨折が治癒するまでの期間:箱根駅伝出場校選手の実態調査より」日本臨床スポーツ医学会誌 28(2) p277~280 2020年

(*10)「箱根駅伝チームの20%が経験する疲労骨折、駒大4区鈴木芽吹選手も」読売新聞(ヨミドクター) 2023年1月7日

(*11)白石光一・塚崎智雄「高校駅伝選手に発生した多発性疲労骨折の1例」整形外科と災害外科41:(1) p285~288 1992年

(*12)結城豊弘「オムツを履いて撮影に挑む…メディアは報じない『箱根駅伝』生放送の裏側を明かそう」現代ビジネス 2023年1月8日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2023年1月21日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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