2.サイゼリアのアナログトランスフォーメーション
ファミリーレストラン大手「サイゼリヤ」の業績が好調です。22年8月期の売上高は前年同期比18.6%増の1500億円、営業利益は70億円を予想しています。
他のレストランチェーンではタッチパネル等を積極的に導入していますが、サイゼリアではあえてアナログにこだわっています。各テーブルに用意された注文用紙に客が自分で注文を記入し、それを受け取った接客スタッフが復唱し、デジタル端末に入力します。
これについてサイゼリヤの堀埜一成社長は「当社はすでに成熟期に入っており、来店客のほとんどはリピーターです。このフェーズではカスタマーインティマシー(顧客親密性)が重要になります。ファストフード店とは異なり、サイゼリヤは注文を聞く、料理を運ぶ、皿を片付けるなどを接客スタッフが行うフルサービスのレストランであり、接客の部分は省けません」と説明しています。
記入式採用によって、接客スタッフが来店客のテーブルに滞留する時間が短縮され、注文ミスも減ったといいます。
サイゼリヤのアナログ改革は他にもあります。価格を改定し、1円単位の端数をなくし、「50円」「00円」の単位に揃えました。
例えば299円の「ミラノ風ドリア」は300円、139円の「プチフォッカ」は150円に値上げしました。一方で、「ライス」は169円から150円に値下げしています。
端数をなくした効果は上々で、小銭のやり取りは60~80%減となり、会計にかかる時間も30%減少したとのことです。また、来店したグループでまとめて支払うケースも増え、個別会計は25%減少したそうです。
また、顧客の心理も微妙に変化したようで、客単価が700円台前半から746円台(21年8月期)にアップしたといいます。
堀埜社長は「DXはトップダウンではうまくいきません。まずはアナログトランスフォーメーションを進める。DXはその先にあります」と語っています。
サイゼリアのケースは、デジタルシステムの導入ではなく、人の動きを改革しています。記入式の採用も、顧客自身はそれを手間とは感じないのではないでしょうか。それよりもタブレットで何度もボタンを押したり、確認する方が余程手間です。スタッフが復唱することで、コミュニケーションもスムーズになり、むしろ、店の好感度が上がったのでしょう。
また、価格を改定し端数をなくしたことで、割り勘の時の計算の手間を省けるようになり、釣りに一円玉を受けとらなくても済みます。細かいことですが、顧客にとっては満足度が向上し、結果的に客単価が上がったのだと思います。
私はこれと正反対の経験もしました。あるレストランで入口に券売機を設置してあり、事前に注文するのですが、券売機のインターフェイスも悪く、注文に時間が掛かるので、すぐに行列ができます。結果的に頼みたいメニューも頼めず、追加したくても、また券売機に並ばなければなりません。どんなに料理がおいしくても、「二度と行くものか」と思いました。
経営者はDXのつもりでも、顧客が逃げることもあるのです。
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