4.顧客満足と消費者満足の両立
DXという名目で何らかのシステム構築を引き受けた企業にとって、お金を出すのはシステムの発注者です。システム屋さんにとって顧客満足とは、クライアント企業を満足させることです。
欧米では業界ごとに、組織と役割分担、業務フロー等が標準化されています。そうしないと、転職してもすぐには仕事ができないからです。
日本では終身雇用が主流だったために、各企業の組織や業務は標準化されていません。また、役職を作るために機能しない部署を作っているケースもあります。一度組織を作ると、それを廃止するのは大変です。このように、各企業が勝手にルールを決めて、そのルールに基づいたシステムを構築しているので、無駄が多いのです。もし、業界での標準化できていれば、安価な業界標準システムができているでしょう。
日本では、企業ごとに各部署の担当者にヒアリングし、システムを組み立てます。クライアント企業の社内業務システムであれば、クライアント企業だけの意見に従えば良いのですが、小売店、飲食店、サービス業等の消費者との接点で使われるシステムの場合、消費者満足が重要になります。
問題は、クライアント企業の担当者が消費者の立場に立ち、消費者の満足を理解できるかということです。残念ながら、小売業であっても、消費者の立場で自らの売場や売り方を見ることができる人は非常に少ないのです。
というか、社内システムであっても、会社全体の業務フローを理解している人は少ないし、隣の部署がどのような仕事をどのようにしているかを正確に理解している人は少ない。多くの場合、システムができ上がってから、「ここをもう少し、こうできないか」などと改善点が出てきます。
ましてや、消費者の立場に立って、システムをチェックすることなど不可能です。それに消費者はシステムが使いづらいと思っても黙っています。そして店に来なくなります。
デジタルによって新しいビジネスモデルを構築するとか、デジタルによってイノベーションを起こすことは、会社のビジョンや会社全体の業務を理解する必要があります。つまり、経営者でなければできません。経営者が確固としたビジョンを持ち、全ての組織と各部署の業務フロー、各段階の意思決定システムを理解し、最低限のシステムの知識がなければ実現できません。
経営者がシステム担当者に命令し、その担当者が外部のシステム会社に丸投げしているようでは、DXなど夢のまた夢です。
それでも担当者はこれがDXだと胸を張るでしょうし、経営者もそれを信じてDX信仰を強めるのです。
編集後記「締めの都々逸」
「人と人とが 互いに絡み デジタル使えば 尚も良し」
僕は古い人間かもしれないけど、やはりシステムはバックオフィスのものだと思います。そして、フロントオフィスは人間の仕事。しかし、スシローはフロントオフィスをシステムにして、裏で人間が寿司を作っています。
これでいいのかな、と思います。もちろん、経営効率でいえば正しいのでしょうが、社会としてどうなんでしょうねと思ってしまう。
人間が尊重される社会、人間が埃を持てる職場を考えると、どうも方向性が違うのではないかと。そして、その雰囲気を顧客が感じてしまうのではないかと。
昔、コンビニでバイトテロがありました。あの時も、本来ならば深夜業務をバイトだけに任せる方がおかしいのではないかと思いました。やはり社員が責任者としてついていればあんなことはなかった。
もちろん、悪いことした奴が悪いに決まってるけど、そういう事件を誘発している要素もあるのでは。人に優しい企業をめざしてほしいな、と思いますね。(坂口昌章)
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