中国・王毅氏ヨーロッパ訪問の話題を吹き飛ばした、成果なき米中会談

 

実際、大統領の発言と同じ日、アメリカは中国への先端技術の流出防止のため司法省や商務省など省庁を横断する組織の創設を発表した。司法省は中国、ロシア、イラン、北朝鮮などを名指しした上で、「(これらの国が)先端技術を獲得すれば、人権侵害をもたらす市民の監視や軍事力の増強につながる」とコメントしているのだ。バイデン政権がアメリカ企業の対中投資を禁ずる検討を始めたとも伝えられた。

それだけではない。中国が最も嫌う台湾問題では、国防総省のミッシェル・チェイス副次官補が台湾に到着したのも同じ時期だ。これでは「習近平と話し合い」と言われても中国側が前向きになれるはずもない。少なくとも「春に台湾を訪問する」とケビン・マッカーシー下院議長が公言しているのだから、トップが何かを話し合っても、米中関係が早晩ぶち壊しになることは目に見えているのだ。

一方の中国も、商務省がロッキード・マーティンコーポレーションとレイセオン・ミサイルズ&ディフェンスの2社に対し「中国の主権や安全を損ねる外国企業として罰金を科す」と発表。これは台湾への武器売却を問題視した中国が「対外貿易法」、「国家安全法」、「信用を欠くエンティティリスト規定」に従い、「WTOのルールに則った」制裁だというが、明らかに気球問題での意趣返しだ。つまり両者は、とても歩み寄るなんていう雰囲気ではなかったのだ。

ただ不思議なことは、バイデンの発言後に、気球を巡る米中の攻防には小さな変化が見てとれるようになった。会談を求めるアメリカに対する中国の拒否という攻守の入れ替えが起きていたように見えたことだ。

シンガポールCNA(2月16日)は中国外交部の「アメリカが気球問題をどう扱うによって、危機を適切に管理しながら中米関係を安定させるという、アメリカの誠意と能力が試されている」という強気な発言を紹介。北京の特派員は「(中国は)『アメリカは一方で緊張を煽り、一方で対話を望むことはできない』としていますから、会談実現には疑問」という分析を披露していたほどだった。

アメリカの放送局PBSは、『ニュースアワー』(日本時間2月17日午前9時)のなかで、硬軟に揺れる米政権の対応を紹介。「習近平との話し合いを求めるが、気球問題で謝罪はしない」というバイデンの姿勢を紹介しながらも撃墜を続けた必然性に疑問を投げかけた。実際、バイデン自身も後の3つの飛行物体については、以下のように歯切れの悪い説明をしている。

「情報当局はこれらの物体がレクリエーション用、或いは気象観測など科学研究を行う民間企業のものである可能性が最も大きいとした」つまり、おそらくアメリカの民間企業に属する気球を米軍が撃墜した可能性が高いというのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年2月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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