プーチンを弱体化したいだけ。いつまでもウクライナ戦争を終らせる気がない米英の魂胆

2023.03.09
 

ドイツの「レオパルト2供与の決定」が象徴するもの

一方、ドイツは、ガスの新たな輸入インフラを構築してきた。北海沿岸のビルヘルムスハーフェンに液化天然ガス(LNG)輸入ターミナルを完成させた。また、洋上でLNGを受け入れて貯蔵し、温めて再ガス化してパイプラインへ高圧ガスとして送出する「浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備」を5隻チャーターした。2003年1月には、LNGタンカーの受け入れ、稼働を開始した。

さらに、ドイツへの売り先をみる。米国は「シェール革命」によって、すでに石油・天然ガスの世界最大級の生産国となっていたが、LNG輸出で、2022年1-9月に初めて世界一になった。欧州向けが急増したからである。

このように、欧州のロシア産石油・天然ガス離れは確実に進んでいる。ロシアとの停戦のための対話を粘り強く続けてきたはずのドイツが、「レオパルト2」戦車をウクライナに供与することを決めたのは、「ロシア離れ」を象徴しているのかもしれない。

米英のメジャーにとって、欧州の石油ガス市場を取り戻す好機は、現実のものとなりつつあるのだ。ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、米英にとって有利な状況だ。

プーチン弱体化の好機。政治的にも停戦させる理由のない米英

政治的にも、米英にとってウクライナ紛争の長期化・泥沼化のデメリットはない。紛争が長引けば長引くほど、「力による現状変更」を行ったプーチン大統領は国際的に孤立し、国内的にも、追い込まれることになるからだ。

米英にとってウクライナ戦争とは、20年以上にわたって強大な権力を集中し、難攻不落の権力者と思われたプーチン大統領を弱体化させ、あわよくば打倒できるかもしれない好機なのだ。政治的にも、ウクライナ戦争を停戦させる理由がない。

東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATOは東方に拡大し、ロシアの勢力圏は、東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退した。ウクライナ戦争は、ボクシングに例えるならば、まるでリング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものだ。

その上、ウクライナ戦争開戦後、それまで中立を保ってきたスウェーデン、フィンランドがNATOへ加盟申請した。ウクライナ戦争中に、NATOはさらに勢力を伸ばしたといえるのだ。

要するに、NATOの東方拡大とロシアの勢力縮小という、東西冷戦終結後、約30年間にわたる大きな構図は変わらないのだ。仮に、今後ロシアが攻勢を強めて、ウクライナ全土を占領したとしても、世界的に見ればロシアは後退している。すでにロシアは敗北しているという状況なのだ。

米英の掌の上にあるウクライナ戦争の帰趨

米英にとって、さらに有利なことがある。私は、仮に「新冷戦」というものが存在するならば、それは欧州ではなく、北東アジアだと考えてきた。それは「台湾有事」や「北朝鮮」を巡る冷戦だが、ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、ロシアはそれに関与する政治的・経済的・軍事的な余力を失うことになるのだ。

要するに、米英にとって、ウクライナ戦争が長期化することにメリットがある。一方で、すでにロシアには勝利したに等しい状況でもあるので、いつでもやめられる。ウクライナ戦争の帰趨は、米英の掌の上にあるといえるのではないだろうか。

image by: Володимир Зеленський - Home | Facebook

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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