中国による武器供与の発覚が招く世界の混乱
しかし、今後仮に中国がロシアに対して武器を供与していることが発覚すれば、それは米中関係を悪化させる最大要因となろう。米国は中国のイメージ悪化を狙ったパブリケーション外交を積極的に展開するようになり、欧州諸国や日本韓国、オーストラリアなどロシア制裁に加わる国々は中国との関係を見直すことになる。
また、米主導の対中制裁が強化され、米中経済のデカップリングはいっそう進むことだろう。バイデン政権は昨年秋、先端半導体の製造に必要な装置や技術が軍事転用される恐れを警戒し、対中半導体輸出規制を強化したが、ロシアへの武器供与によって製造品や部品などだけでなく、作物やエネルギーなど非製造業へも対中規制が強化される可能性もあろう。
一方、そうなれば中国側も強い対抗措置に出るはずだ。中国側が「米国もウクライナに対して莫大な軍事支援をしているだろう」と強気の姿勢を崩さないのは想像に難くなく、中国も米国に対する輸出規制を拡大することになり、米中の経済切り離しにいっそう拍車が掛かることになろう。
“遺憾砲”発射だけでは許されない日本
そして、最も懸念されるのが日中関係の悪化だ。中国の武器供与について、日本は米国と足並みを揃えることになるので、日本も中国に対して“遺憾砲(よく首相や閣僚が使う)”だけでは米国の反発や不信感を高めることになる。よって、何かしらの制裁を発動することになるが、それによって中国側から何倍も想い報復措置が取られる可能性が高い。
2010年9月の尖閣諸島での中国漁船衝突事件の際、中国は報復措置としてレアアースの対日輸出を突然停止した。今年に入っては、ゼロコロナ政策の撤廃に伴い、日本が対中国の水際対策強化を打ち出したなか、中国はそれへの対抗措置としてビザ発給停止という措置を取った。
邦人の不当拘束という最悪のシナリオ
しかし、最悪のシナリオを考えるならば邦人の不当拘束だ。中国全人代の常務委員会では昨年末、スパイ行為の定義を現行法より拡大し、摘発を主導する国家安全当局の権限や逮捕者への罰則などを強化する反スパイ法の改正案を発表した。
反スパイ法の改正案は今年夏にも可決される見込みだが、中国ではよく分からない理由で拘束され、実刑判決を下される日本人が後を絶たない。習政権は国内での監視の目を強化しており、日中関係の悪化によって邦人の身の安全が懸念される。2015年以降ではスパイ疑いなどで15人以上の日本人が拘束されている。
2021年1月には反スパイ法に抵触したとして逮捕された邦人男性2人の懲役刑が確定し、2019年9月には中国近代史を専門とする大学教授が日本へ帰る直前に北京の空港で拘束されるなどしている。昨年も、スパイ行為に関わったとして北京で拘束され、懲役6年の刑期を終えた邦人男性が帰国し、過酷な牢獄での生活を赤裸々に語った。
一見、中国によるロシアへの武器供与と日中関係の悪化、邦人拘束の可能性は別の問題のように映る。しかし、それは一本の線で繋がる恐れがある。
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