実効性に疑問。的中してしまった「質問権行使」への不安
自民党本部は表向き、統一教会との縁切りを宣言しているが、今回の統一地方選では、多くの首長や議員が十分な説明責任を果たさないまま出馬した。メディアが掘り返さないのをいいことに、岸田首相は素知らぬ顔だ。
昨年10月17日の衆議院予算委員会で、岸田首相は、宗教法人法に基づく質問権を行使して統一教会の実態調査を進め、その結果をもとに教団への「解散命令」を裁判所に請求する方針を示した。
担当の文化庁宗務課は昨年11月22日以来、5回にわたり質問権を行使し、教団から大量の回答書を受け取ったが、実は、この調査が一向に進展していない。
週刊文春5月4・11日合併号には、質問権行使にあたり、担当の文科省から諮問を受ける「宗教法人審議会」関係者の以下のようなコメントが掲載されている。
「教団側の損害賠償額約14億円は他の宗教団体でもあり得る金額で、これだけで解散請求するのは難しい。そこで、韓国の教団本部へのカネの流れを調査し、外為法に抵触する例がないかどうかを探しているようです。ただ、それもなかなか上手くいっていない。政府内では解散請求は相当難しいとの見方が強まっています」
裁判の積み重ねによって、統一教会の不法行為の数々や、反社会性は明らかになっている。そのうえでの調査なのだが、結局のところ、22件の民事裁判で認定された約14億円の損害賠償分の事実しかつかめず、それでは解散請求するのに不足しているということなのだろうか。
文春の記者の「なぜこれだけ時間がかかっているのか」という質問に対し、文化庁次長や宗務課長らは次のように答えている。
「仮に今後、解散請求命令をするとなれば、説得する相手は東京地裁の裁判官です。彼らを納得させるには、証拠を積み上げていくしかない。証拠もないのに請求しても、裁判所に棄却されるだけです」
もともと、質問権行使には警察や検察の捜査のような強制力はなく、当初から実効性が疑問視されていた。全国霊感商法対策弁護士連絡会は「宗教法人法に基づく要件は既に満たされており、今から質問権行使を行うことは、いたずらに時間を費消するだけだ」と指摘していた。
まさにその不安が的中した感じなのだ。文春の記事は、岸田首相の“やる気の無さ”を指摘する。
首相が本気にさえなれば、ともすれば“できない”理由を探して過剰に慎重になりがちな官僚の尻を叩いて、前に進め得るはずなのだが、今回は文化庁に対して官邸は何も指示をしていないという。
1995年、地下鉄サリンなどオウム真理教の一連の事件を受け、当時の与謝野馨文相は「宗教界をすべて敵に回す」と尻込みする役人を抑えて、政治主導で宗教法人法を改正し、解散命令請求を断行した。事実、宗教界はこぞって大反対だったという。だからこそ、そのような既得権を打破するには、政治主導しかないのである。
そもそも前出の宗教法人審議会関係者が言う「損害賠償額約14億円は他の宗教団体でもあり得る金額」というのにも疑問がある。過去に解散命令が出されたオウム真理教と明覚寺はともかく、現存する宗教法人でそんな規模の損害賠償をかかえている宗教法人は筆者が調べた限りでは存在しない。
宗教法人法81条1項は、解散命令できるケースについて、こう定めている。
法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと
岸田首相は昨年10月18日の衆院予算委員会で、この「違法行為」について、いったんは刑事だけで民事は含まれないという趣旨の答弁をしたが、調査の実効性への疑問が噴出したため、翌19日の参議院予算委員会では「民事も含まれる」と修正している。
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