一部議員の猛烈な反発によりこれまで見送られてきたものの、5月18日にようやく自公により国会に提出され、6月9日の衆院内閣委員会で修正可決された「LGBT理解増進法案」。今国会で成立する見通しとなりましたが、そもそもなぜ自民党はLGBT法案に対して、これまで否定的な姿勢を見せ続けてきたのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、その裏事情を徹底解説。さらにそんな自民党が同法案を国会提出せざるを得なかった理由も明らかにしています
LGBT法案 自公が修正合意。自民党、宗教保守に配慮、結局は“外圧”でしか変われない日本
5月16日、自民党の茂木敏充、公明党の石井啓一両幹事長は東京都内で会談し、LGBTなどの性的少数者への理解増進法案について、自民党と公明党で修正合意した与党案を州内に国会へ提出する方針を固めた。
2021年に与野党の実務者で一致した法案を提出する意向を表明する。
一方、立憲民主党の岡田克也幹事長は、
「修正は改悪だ」(*1)
と厳しく批判。
与党は、19日から開かれるG7(先進7カ国首脳会議)サミットを前に国会へ提出し、性的少数者の権利保護に消極的だとの批判をかわす狙いだ。
ただ、今回の与党案は、2021年に与野党の実務者で合意した法案の「差別は許されない」との表現を、「不当な差別はあってはならない」と変更。
「性自認」との文言も、「性同一性」に置き換えた。安倍晋三元首相の国会答弁で使われた言い回しと同一であり(*2)、保守系の議員は理解を示す。
しかしながら、当事者や支援者からは理念の後退を懸念する声が上がっている。国会内で開かれた集会で、性的少数者の支援団体「fair」の松岡宗嗣代表は、
「議論すればするほど内容が後退していく。このままでは理解増進法ではなくて、差別を増進するような法律になってしまう」(*3)
とする。
目次
- 玉虫色決着 強引幕引き
- 自民党、宗教保守に配慮
- 結局は“外圧”でしか変われない日本
玉虫色決着 強引幕引き
自民党と公明党で合意した修正内容は、野党を含む2年前の超党派の合意案を踏襲しつつ、差別についての記述の見直しや、「性自認」の文言の変更、独立した項目だった「相談体制の整備の削除」といった修正を加えた。
自民党は「意味は変わらない」と主張するものの、識者は法的な実効性を低下させると危惧する。
自民党が主導した修正は、「差別は許されない」とする記述の見直しだ。法案の第一条(項目)であった文章を全面的に削除し、三条(基本理念)において「不当な差別はあってはならない」と変えた。
このことについては、「許されない」のままでは禁止規定とみなされ、それを根拠とした訴訟を起こされかねないとする保守派議員の懸念を踏まえたもの(*4)。
追手門学院大学の三成美保教授(ジェンダー法)によると、「不当な差別」という表現は、2016年に成立したヘイトスピーチ解消法で使われている。
憲法学では、「合理的な区別」と「不合理な差別」を分けることが通説であり、不適切とまでは言えないとのこと(*5)。
ただ、
「何が正当で、何が不当なのかという範囲を明確にしなければ恣意的な法解釈がなされる恐れがする」(*6)
と危惧する。
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